連載595 山田順の「週刊:未来地図」もはや完全に時代遅れ 五輪が「オワコン」となったこれだけの理由(中2)

連載595 山田順の「週刊:未来地図」もはや完全に時代遅れ 五輪が「オワコン」となったこれだけの理由(中2)

 

理由(4)もはや経済効果も望めない

 日本政府が五輪を招致したのは、経済効果を狙ったからだった。だから、コロナ禍のなかでも強行開催してしまった。しかし、五輪に経済効果があるとされたのは、グローバル化以前の話であり、いまやその効果はないとされている。

 開催国、開催都市は、単純に2つの効果を主張する。1つは、スタジアムや選手村の建設などの事業が需要を底上げする効果。もう1つは、海外から大勢の観戦客がやってきて、国内におカネが落ちる効果。いわゆるインバウンド効果だ。

 しかし、この2つとも、今回の東京五輪では成立せず、むしろ莫大な赤字の計上が見込まれ、五輪後の経済の落ち込みが懸念されている。

 これはなにも今回に限った話ではなく、2012年のロンドン五輪でも、とくにインバウンド効果はなかった。海外観戦客はやってきたが、それはもともとのビジネス客、観光客が置き換わっただけにすぎず、ホテル収入などはイーブンだったのだ。

 東京五輪の場合、直接の経済効果は約2兆円とされ、波及によるレガシー効果が12兆円とはじかれた。しかし、レガシー効果に関しては、五輪が刺激になってイノベーションが起こるなどとは言えず、ただの机上の空論にすぎない。

 また、国全体のマクロ経済を考えれば、GDPが約500兆円の国で2兆円というのは、調整されてしまうほどの小さな額にすぎない。五輪のようなイベントの一過性の効果などより、設備投資、研究開発費、人材の質、生産性などの持続性のあるものを重視しなければならない。

 一過性のイベントに頼るような経済は、健全とは言えない。

理由(5)スポンサーになっても儲からない

 IOCというのは、五輪の利権を売っているだけで、直接は運営していない。そのため、今回、組織委は国内68の企業から巨額のカネ(協賛金)をかき集めた。その額は約3700億円に上ったとされ、トヨタは1社で1000億円以上払ったと言われている。

 しかし、ただスポンサーになっただけでは、リターンは少ない。オフィシャルパートナーとして積極的にアクションを起こし、世界にアピールするための「アクティベーション」が求められる。

 しかし、このアクティベーションが、平和や社会に貢献するという五輪の理念のためでなはなく、単なるIOCと組んだ金儲けと見透かされてしまった。コロナ禍での強行開催とあって、多くの企業が五輪関連CM、開催期間中のイベントを取りやめた。さらに、トップの開会式への出席も取りやめた。

 これは、資金提供をして大会を支援していることが逆に企業イメージを傷つけると考えたからだ。

 これまでも、五輪に協賛金を出す企業は批判されてきた。なぜなら、そのコストは、製品価格やサービスなどによって最終的に消費者に回されるからだ。

 2017年6月、マクドナルドはIOCとの契約を3年残して打ち切ると発表した。マクドナルドは、1976年から41年間、五輪のスポンサーだったが、効果がないと判断したのだ。

 1984年のロサンゼルス大会で、五輪は商業主義に舵を切ったが、その理念とビジネスが両立しないという矛盾を抱えたまま巨大化を続けてきた。もはや、その矛盾は解消できないだろう。

 (つづく)

 

この続きは8月26日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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