連載596 山田順の「週刊:未来地図」もはや完全に時代遅れ 五輪が「オワコン」となったこれだけの理由(下1)
理由(6)五輪で問われる「環境」と「SDGs」
現在、企業は厳しく社会的責任を問われている。その一つが地球温暖化に対しての取り組み方だ。それが、中途半端だと、株主総会で追及され、場合によっては投資も引き上げられてしまう。
いまもてはやされているのが、「ESG」投資である。
「E」は「環境」(Environment)、「S」は「社会」(Social)、「G」は「ガバナンス」で(Governance)である。これを総合的に勘案して、投資家は投資を決める。
そこで、五輪を見ると、これはエコフレンドリーとはとても言い難い。開催都市では多くの建設が行われるが、その資材が環境を破壊する。開催には大量の電力が消費されるうえ、CO2も大量に排出される。また、開催中には大量のゴミが出る。さらに、会場跡地が有効利用されることもなく、そのまま廃墟化するという問題もある。
2016年リオ五輪のために整備・建設された「マラカナンスタジアム」は、大会終了後は荒廃の一途をたどり、スタジアム内部はごみで埋め尽くされてしまった。
したがって、いまや五輪は「エコフレンドリー」と「SDGs」(持続可能な目標)を備えてなければ、開催できない。日本の真夏に開催となった東京大会は、はたしてこの2つを備えていただろうか?
理由(7)開催時期と時差が最大のハードル
今回の真夏五輪に対して、一部の海外メディアは「日本はウソをついた。東京の夏は過酷すぎる」と批判した。ジョコビッチなどのテニスプレーヤーは、あまりの暑さに試合時刻を変更するように、組織委に要求した。
今回の東京大会が、真夏開催になり、なおかつ決勝などの試合時刻が、日本時間ではなくアメリカ東部時間になったのは、すべてIOCが独占放映権をNBCユニバーサルに売ったからである。
NBCは、IOCとの間に2032年大会まで総額120億ドル(約1兆3200億円)でパートナーシップ契約を結ぶ見返りに、五輪の開催時期をアメリカでほかのビッグイベントがない真夏にすることと、試合時刻をアメリカ東部のプライムタイムに合わせることを要求した。
IOCはカネのために、これを受け入れたのだから、五輪が「アスリートファースト」などというのは、まったくの偽善だ。
そもそも、世界中のアスリートが、ある時期、世界の1カ所に集まって競技するということ自体に無理がある。世界には時差がある。日本の昼はアメリカの夜である。古代オリンピックは、時差のないギリシャ国内だけの競技だった。それを全世界に拡大させたはいいが、テレビと結びついた商業主義によって歪められてしまった。
オリンピックを世界の1カ所にしぼって行うという案もあるが、それは五輪の精神に反するとIOCは反対している。五輪の精神というより、それではカネにならないので、IOCは絶対受け入れないだろう。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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