連載599 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(上)

連載599 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(上)

(この記事の初出は6月15日)
 コロナ禍が続いているので、「カーボンニュートラル」(脱炭素)という大問題に対する人々の関心度は低い。「日本は地球温暖化対策に遅れている。なんとかしなければ」といったところが、一般の人々の認識だろう。
 しかし、今後、脱炭素化が進めば進むほど、日本経済は落ち込み、国民生活は貧しくなっていく。それなのに、政府は「脱炭素社会」実現に向けてのロードマップをつくり、まったく無防備なカーボンニュートラル政策を進めようとしている。

 

G7では地球温暖化対策がメインテーマ

 6月13日、イギリスで行われていた「G7サミット」(主要7カ国首脳会議)が終わった。日本のメディアは、東京オリンピックが間近なため、「G7首脳 五輪支持『コロナ克服の象徴』」(共同通信)といった報道一色だったが、今回のサミットの主要テーマはオリンピックなどではない。私がチェックしたところでは、欧米のメインストリームメディアで、G7報道でオリンピックを見出しに使ったところは一つもなかった。

 では、なにがメインテーマだったか?

 それは米英主導による「対中政策」(対中包囲網の形成)の合意と、「地球温暖化対策の促進」である。共同宣言は、この2つの柱でできていて、とくに地球温暖化に関しては、かなり踏み込んで協力していくことが宣言された。すでに、G7は2030年までに10年比で地球温暖化ガス(グリーンハウスガス)の排出量をほぼ半減させることで合意しているので、改めてこれが確認されたのだ。

 さらに、具体的に明言されたのが、温暖化ガスの大きな原因とされる石炭火力の縮小だ。5月に開かれた「G7気候・環境相会合」では「排出削減対策が取られていない場合は新規の国際支援の全面終了に向けて具体的な措置を2021年中に取る」ことが合意されていた。したがって、これが再確認され、共同宣言に盛り込まれたのである。

石炭火力に頼る日本と中国を狙い撃ち

 日本人ならほぼ誰もが知っていると思うが、私たちがいま使っている電気の75%は、石炭を中心とした化石燃料によってつくられている。そのため日本は、気候変動の国際会議のたびに、この点を批判されてきた。

 日本の化石燃料発電の技術は高く、CO2排出量は圧倒的に少ない。しかし、そんなことはまったく考慮されず、環境活動家(エコアクティビスト)から「一刻も早く停止しろ」と言われ続けてきた。さらに「化石燃料発電を海外に輸出するとはなにごとだ」と非難されてきた。

 そのため、今回のG7で菅首相は、「今年末までに排出削減対策が取られていない海外の石炭火力発電への新たな政府の直接支援を停止する」と、期限を明示して約束せざるをえなかった。 

 ただし、今回の合意では、相手国が排出削減対策をしていれば、新規の支援は可能と解釈できる。しかし、そんなことをすれば、激しく非難されるのは間違いない。

 現状では、「液化天然ガス」(LNG)は認められている。よって、石炭火力もLNG並みのCO2排出量にすることが求められる。しかし、それは石炭火力のCO2排出量を現状の半分にすることなので、ほぼ不可能だ。

 石炭火力発電の削減・禁止は、中国に対する牽制でもある。IEA(国際エネルギー機関)によると、中国のCO2の排出量は2018年で世界全体のほぼ30%。これは、G7の合計25%より多い。

 今年の11月にイギリスで「COP26」(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開かれるが、そこに向けて、中国の姿勢を変えさせるのがG7の狙いだ。バイデン政権になってアメリカが「パリ協定」に復帰したので、これは国際社会の決定事項と言える。
つまり、日本も中国と同レベルの扱いになってしまったのである。

(つづく)

 

この続きは9月1日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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