連載601 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(中2)
科学論争は終わり各国の経済覇権戦争に
(この記事の初出は6月15日)
それにしても思うのは、なぜ私たちは、ここまでして地球温暖化防止に取り組まなければならないのだろうか?ということだ。このメルマガでも何度か、温暖化説への疑問を呈示してきた。まず、なぜ地球温暖化が、それほどまでに人類に脅威なのか、私にはわからない。
むしろ、暖かくなっていいのではないかと思う。かつて、キリマンジャロの雪がなくなる、ホッキョグマは絶滅すると言われた。しかし、いまもキリマンジャロの雪はあるし、ホッキョグマはちゃんと暮らしている。
次に、温暖化しているとしても、その原因が人類の活動によるものなのか、犯人が本当にCO2なのか、これもまたよくわからない。これまで、数多くの論文、記事を読んだが、科学的根拠はあいまいだとしか言いようがない。そもそも気候は変動するものであり、その影響がもっとも大きいのは太陽の黒点活動ではないだろうか。
いまはっきりしているのは、地球温暖化への対処、つまり脱炭素社会へ向けての動きは、もはや科学論争の域を超えてしまったということ。脱炭素は政治イッシューとなり、各国の「経済覇権戦争」にまでなってしまったということだ。
現在、世界各国は、なにかに取り憑かれたように「カーボンニュートラル競走」をしている。この競走に勝てば、次の時代の経済覇権を手に入れられると信じている。
日本が不利な脱炭素ゲームチェンジ
はっきり言って、「カーボンニュートラル競走」は日本には不利だ。下手をすると、ただでさえ低迷している日本経済を、どん底に突き落としかねない。なぜなら、この競走は、大きなゲームチェンジを伴うからだ。
一つは、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換。もう一つは、ガソリン車からEV(電気自動車)への転換である。
再生可能エネルギーへの転換は、一見すると島国・日本には有利なように思える。しかし、それは思い違いで、すでに水力発電の開発は、ほぼ尽くしてしまっている。地熱、風力もあるが、非常に効率が悪い。海に囲まれているので洋上発電も期待されるが、欧州のような遠浅の海が少ないから発電量には限界がある。
さらに、再生可能エネルギーを含めたクリーンネルギー(原子力、水素なども含める)の実用化を実現させるためには、あらゆる分野でのイノベーションが必要になる。
もう一つ、EVへの転換だが、これまで日本の自動車メーカーは、ガソリン車から発展したHEV(ハイブリット車)などに傾注しすぎて、EV1本化は起こらないと、その開発を怠ってきた。それが、今後アダとなる可能性が高いのだ。
じつは、EVだけではCO2排出削減はできない。EVを生産する電力、動かすための電池などを含めて、生産から消費までの全サイクルでのCO2の削減が必要だ。そのため、日本の自動車メーカーはEVよりCO2排出量が少ないHEVがなくなることはないだろうと考えてきた。
しかし、この考えは甘かった、いまや、世界のトレンドは、完全にEV1本化になりつつある。中国が2035年に50%以上をEVにすることを、イギリスが2030年にガソリン車の新車販売の中止などを早々と打ち出したため、ゲームチェンジが加速化してしまった。
そのため、日本政府はあわててEV1本化政策を取らざるをえなくなっているのだ。
(つづく)
この続きは9月3日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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