連載604 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(下2)

連載604 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(下2)

 

関税のかけ合いになり生産コストが上がる

(この記事の初出は6月15日)

 国境炭素税に関しては、WTO(世界貿易機関)が反対している。なぜなら、これを関税とすれば、自由貿易に反するからだ。もちろん、石炭火力による発電が大きい中国は猛反対である。

 しかし、EUとアメリカが手を結んでしまえば、国境炭素税はいずれ実現するだろう。ドイツのVWはしたたかである。すでに国境炭素税の導入を見越してスウエーデンに電池工場を建設した。スウエーデンの電源は、水力が40%、原子力が40%で化石燃料はわずか1%だから、国境炭素税はほとんど払わないですむ。

 このことを考えると、日本の自動車産業は圧倒的に不利である。国内生産をすればするほど、化石燃料発電の電気を使うので、いくらエコなEVをつくろうと国境炭素税が重くのしかかる。トヨタの豊田社長が、「このままでは日本は自動車を輸出できなくなる」と訴えたのも、このことがあるからだ。

 いったん国境炭素税が導入されると、どの国も同じようように導入せざるをえなくなる。関税と同じで、相互に掛け合うことになる。なぜなら、もしEUが課税したら、日本も同じ税率で課税しないと不利になるから、自動的に課税せざるをえないのだ。

 たとえば、EUがプリウスに10%の国境炭素税をかけるとする。その際は、日本国内でも10%課税する。そうしないと相殺できないし、同じ税なら外国に課税されるより国内で課税するほうがいいに決まっているからだ。しかしこれは、日本の自動車メーカーの生産コストを直撃する。国内生産が割に合わなくなるだろう。

カーボンニュートラルが空洞化を加速させる

 現在、日本の自動車メーカーの国内生産比率は、34%である。トヨタは「国内300万台」体制を組んでいるが、それでも38%である。ホンダと日産にいたっては、16%しかない。

 しかし、国境炭素税が導入されたうえ、再生可能エネルギーへの転換が進まなければ、どうなるだろうか?

 言うまでもなく、自動車産業は、国内生産をあきらめ、海外に出ていくだろう。これは、自動車産業に限った話ではない。日本のあらゆるものづくり産業に共通する。

 日本の「失われた30年」のもっとも大きな原因は、国内産業の空洞化である。冷戦が終結し、1990年代に中国がグローバル市場に参入すると、中国の安価な労働力を求めて、日本企業は中国を皮切りに、一気にアジアに出ていった。

 こうして、日本の対外直接投資は膨らみ、2019年にはアメリカを抜いて世界一になった。

 菅政権は、「2030年までにCO2を半分に削減する」という目標を立て、前述したように脱炭素社会に向けてのロードマップをつくった。しかし、それはあまりに高いハードルなうえ、いずれも先行した欧米のパクリである。

(つづく)

 

この続きは9月9日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。


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