連載613 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(中2)
(この記事の初出は8月3日)
菅政権の驚くべき国際感覚のなさ
じつは、中国デカップリングがもっとも遅れているのは、日本である。菅政権は、史上稀に見る国際感覚のない、内省的政権で、すべてを「放置」し続けている。
本来なら、安倍前政権が「一帯一路」への参加を表明したのを反故にすべきなのに、それをしようともしない。新疆ウイグル自治区の人権問題(アメリカは「ジェノサイト」と認定)にしても、香港の問題にしても、口先だけ非難して、あとは見て見ぬ振りである。
アメリカは、今年の4月の日米首脳会談で、日本に台湾防衛での共同戦線を呼び掛けた。しかし、菅首相は会談後の記者会見で、共同声明が「台湾海峡の平和と安定」に言及していることに関して、「軍事的関与を前提としたものではない」と明言した。
政権がこんな状況だから、経済界もいまのところ、様子見を続けている。コロナ禍もあって、正直、どうしていいかわからないといったところのようだ。日本企業は、これまであまりに深く中国依存を続けてきたため、中国での利益を失うことに対する恐怖心が強いのである。
TDK、村田製作所の中国依存度は5割以上
ここで、日本企業の中国依存度を見てみたい。「マネーポストWEB」が、中国依存度の高い日本企業ランキングを発表しているので、次に、そのうちのトップ10を列記してみる。
1位:TDK(53.0%)
2位:村田製作所(52.8%)
3位:日本ペイントホールディングス(38.9%)
4位:日東電工(31.1%)
5位:資生堂(25.6%)
6位:日本電産(21.8%)
7位:ニコン(19.5%)
7位:住友化学(19.5%)
9位:ファーストリテイリング(19.0%)
10位:SMC(18.3%)※( )内は全売上に占める中国市場比率 1位のTDKと2位の村田製作所は、なんと中国市場が占める割合が5割を超えている。これでは、デカップリングなどとうてい無理だ。しかも、10位のSMCですら2割近い。
一般的に、売上2割減でも企業は黒字を確保できるとされる。しかし、それは、トヨタやニトリなどの優良企業の場合にすぎない。日本の上場企業全体の損益分岐点比率は78%なので、22%を上回る減収になると赤字に陥ってしまう。つまり、脱中国を貫徹すれば、ほかに代替できるところを見つけない限り、多くの日本企業は持ちこたえられないのである。
(つづく)
この続きは9月22日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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