連載612 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(中1)

連載612 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(中1)

(この記事の初出は8月3日)

4品目切り離しのバイデンの大統領令

 あらためて述べるまでもないが、安全保障と経済は切っても切り離せない。政治と経済は一体だ。となると、クアッドを強化する以上に重要なのは、今後、中国経済をどう弱めていくかである。中国の経済力を削がないことには、中国の脅威はなくならない。拡張主義は止められない。

 そこで、進められてきたのが、中国「デカップリング」政策である。中国経済をアメリカ中心のグローバル経済から切り離すことだ。

 旧ソ連との「冷戦」と、今回の中国との「新冷戦」がまったく違うのは、この点である。冷戦時は東側経済と西側経済はほぼ切り離されていた。しかしいまは、中国経済はグローバル経済の一部となり、あらゆる国の経済と密接につながっている。なによりも、中国は「世界の工場」であり、この工場がなければ世界にモノもサービスも供給されない。

 バイデン大統領は2月末に、戦略的に重要なモノの流通に関するサプライチェーンを見直す大統領令に署名した。ここで挙げられたのは、次の4品目である。  ①半導体、②EV(電気自動車)向け高性能バッテリー、③医薬品、④レアアース(希土類)を含む重要鉱物

 また、4月には、輸出を規制する「エンティティーリスト」に、スーパーコンピューター開発に携わる中国の7企業・団体を追加した。

 もちろん、デカップリングはモノや技術だけではない。中国への投資規制強化や中国人留学生・研究者の受け入れ厳格化など、カネやヒトにおいても進められている。

なぜ、デカップリングが進まないのか?

  中国封じ込め政策を受けて、米企業はもとより、世界各国の企業もデカップリングを進めることになった。しかし、現在のところ、デカップリングは思ったほど進んでいない。前記した4品目のうちでは、中国が技術的に追いついていない半導体だけが先行しているが、ほかの分野はあまり進んでいない。

 たとえばテスラは、中国の上海工場を拡張する予定で、そのための土地取得計画を発表していたが、これを凍結したにすぎない。中国からEVを輸出するとトランプ関税の25%がかかる。そのために計画を凍結させたわけだが、テスらには中国から出ていく気はないという。

 台湾のフォックスコン( 鴻海科技集団)は、アップルのiPadやMacBookの組み立てを中国国内の工場で行なってきたが、これをベトナムに移管すると発表した。しかし、ほかのEMSが中国から工場を移管するという話は聞こえてこない。

 中国をサプライチェーンから外すためには、中国の工場をほかの国に移す必要がある。その有力候補地はベトナム、タイ、マレーシアなどだが、こうしたASEAN諸国ではまだ中国ほど部品調達が容易ではない。また、熟練労働者も足りていない。

 しかも、コロナ禍が起こり、それが1年半にわたって続いているため、これが収束しない限り脱中国はできない状況になっている。

(つづく)

 

この続きは9月21日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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