連載618 山田順の「週刊:未来地図」 コロナ禍のなかで起こっている2極化インフレ、富裕層の「資産シフト」が進んでいる(中2)
(この記事の初出は8月10日)
消費者物価はマイナスでデフレは止まらない
8月6日、総務省は「消費者物価指数」(CPI)の算出基準を改定した。そして、6月の物価上昇率を前年比マイナス0.5%とし、旧基準より0.7ポイント低下したと発表した。
CPIの算出基準の改定は5年おきに行われ、その都度、実際の消費の変化を反映させるように、調査対象の品目そのものを入れ替えたり、品目の比重を調整したりする。今回は、携帯電話料金の比重を重くしたり、ネットでの販売価格を反映させたりした。その結果がマイナス0.5%だが、これは、近年稀に見るマイナス幅だ。
高級品市場がいずれも値上がりしているのに、一般の消費市場は低迷し、デフレが続いている。これは、日本だけの異常な現象だ。
しかし、金融緩和が半永久化し、日銀がおカネを擦り続けているのだから、インフレは必ずやってくると考えるのが普通だ。実際、私の肌感覚では、一般消費市場での物価もじわじわと上がり始めている。
コロナ禍のため、ここ1年以上、ほぼ家に閉じ込められ、外出と言えばスーパーやコンビニがほとんど。そこでのモノの値段を見ていると、ここのところ、以前より高くなってきているのを感じる。
インフレは一時的とFRBが金利上昇を否定
日本と違って、欧米では物価は確実に上昇に転じている。これはワクチン接種が進み、人々の日常消費が戻ってきたからだとされるが、それだけとは言えまい。
アメリカでは6月のCPI上昇率が5.4%に達した。欧州でも、ドイツが2.3%、フランスが1.5%まで上昇した。経済は明らかにインフレ傾向となってきたのだ。
しかし、インフレが一概にいいとは言えない。実際の景気を反映しているならいいが、景気がよくない局面で物価上昇が起これば、さらに景気は悪化するからだ。その意味でいくと、アメリカのCPIが5%以上を記録したことは、よくない傾向とも言える。
個人消費がコロナ禍でオンライン中心となり、まだそれほど伸びていないにも関わらず、物価が大きく上昇に転じたからだ。
そのため、FRBは利上げを懸念する投資家や一般消費者に向けて、インフレを否定した。CPIの上昇は、ワクチン接種が進んで規制が解除されたことにより、経済が急速に開放された。そのための一時的な現象だという声明を出した。
そして、「物価上昇率は2021年の約3%から、2022年、2023年には2%近くまで下がると予想される」とし、金融緩和は続けるとしたのである。
しかし、これはNY株価が下落したのを懸念した声明であり、実際には悪いインフレ(スタグフレーション)に陥る可能性がある。
(つづく)
この続きは9月29日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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