連載623 山田順の「週刊:未来地図」 世界は本当に元に戻るのか?どんどん遠ざかる「コロナ後の世界」(下)
「集団免疫」はできず感染は収束しない
そもそも、ワクチンの開発と接種が進められたのは、一刻も早く「集団免疫」を達成することにあった。ところが、集団免疫はデルタ株の出現により達成されない、「まぼろし」に終わるという見解を専門家たちが表明するようになった。
人口の60%~70%がワクチンを接種すれば、集団免疫が達成され、感染拡大は収束する。パンデミックは終わるというのが、これまでの通説だった。しかし、現実は通説どおりに進まなかった。
8月10日の「ポリティコ」の記事によると、オックスフォード大学のアンドリュー・ポラード教授は、英国議会のコロナ会議に出席して、「ウイルス感染を完全に防ぐ方法がない」「集団免疫が可能でない状況が見られる」と述べたという。
また、イーストアングリア大学のポール・ハンター教授も、「集団免疫という概念は達成できない。最近のデータによると、ワクチンを2回接種しても感染を50%しか防げていない」と指摘したという。
8月14日、ブルームバーグは「自然免疫も問題を解決できない」という主旨の記事を配信した。
記事では、スタンフォード大学医療センターの研究員が「1回 感染すれば一生免疫が続くというならいいが、実際はそうではない」と指摘し、次のように述べている。「集団免疫なしにはウイルスはどんな形態であっても数十年間はびこり、世界の主要国は国境開放と経済活動再開戦略を調整しなければならないかもしれない」
こうした点をふまえ、記事は、2022年までにパンデミックを終わらせることはできないとし、また別の変異株が出現すればその時期はさらに伸びる。つまり、人類は今後100年間コロナと共に生きていくと結んでいる。
国立感染研の脇田隆字所長は、こうした海外の状況を見て、「8、9割の接種率でもどうなるかわからない。接種が進む英国やイスラエルなどの状況を見る必要がある」と言い出した。
インドの感染爆発は完全にピークアウト
現在の日本の感染爆発は、もはや手に負えない状況である。菅首相はかつて得意げに「ワクチン接種が進めば大丈夫」と強調してみせたが、いまや、完全に言葉を失っている。楽観論は吹き飛び、悲観論が日本を覆っている。もはや、コロナ後の世界はやって来ない、世界が元に戻ることはないといった雰囲気になってきた。
しかし、本当にそうなのだろうか? 光明はないのだろうか?
もし、光明があるとしたら、デルタ株の発生の地インドに、その答えがある。というのは、インドはここのところ急速に感染が収束しているからだ。インドの感染拡大は、世界最大で、ピーク時には1日あたり 41万4000件の新規感染者が確認され、死者は4000人以上に上った。
それが、いまや劇的に減少している。
たとえば、デリー首都圏では、ピーク時に1日 2万6000人を超える新規感染者が確認されたが、8月10日以降はなんと50人を切るようになった。デリー首都圏の人口は約1680万人で約1430万人の東京をやや上回るが、1日5000人を超えた東京と比較すると圧倒的に少ない。
アメリカのニューヨーク州も、デリーと同じような人口規模を持つが、感染の再拡大を続け、8月10日以降の新規感染者数は2000人を超えた。
いったいなぜ、インドではパンデミックが収束に向かったのだろうか?
(つづく)
この続きは10月6日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
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