連載628 山田順の「週刊:未来地図」 異常気象が拍車を! 気がつけば「悪性インフレ」で生活崩壊か? (完)
経済成長なきインフレは貧困を招くだけ
異常気象による穀物生産の減少が、これまでの資源高とあわせて、今後の市場に大きく影響していくのは間違いない。しかも、コロナ禍もあって、異常な金融緩和が続いている。これでは、いったん火が点いてしまえばインフレは収まらないだろう。
懸念されるは、このインフレの荒波が、じきに日本を襲うに違いないことだ。
これまで日本は、インフレを熱望してきた。それは、インフレが経済成長を引き起こして景気をよくしてくれると、御用エコノミストたちが力説したからだ。しかし、それは本末転倒な理屈で、経済成長、好景気がインフレを起こすのであって、その逆ではない。
つまり、経済成長を伴わないインフレは、ただただ貧困を招くだけで、なにもいいことはない。とくに、食料品が値上がりすれば、国民生活は困窮する。
世界の穀物生産は、アメリカ、ロシア、中国、ブラジル、ウクライナ、オーストラリアといった国々によって占められ、余剰生産は輸出されてきた。その恩恵をもっとも受けている国が日本である。
しかし、食料としての穀物生産は限界にきている。新興国で生産性の向上があれば、まだある程度は増加する可能性があるが、それだけでは今後増加する人口、中流層の所得増加による食料需要を賄えない。したがって、インフレはある程度、必然と言える。
しかし、それが、日本のように経済成長できない国で起こると、悲劇を招く。
1970年代の「狂乱物価」がよみがえる
デルタ株による感染爆発で、日本経済の回復は半年は遅れることが確実になった。そんななか、インフレが襲ってきたらどうなるだろうか?
景気拡大期のインフレは、物価の上昇とともに給料も上がるので、国民生活に大きな影響はない。しかし、景気が低迷しているときのインフレは、そのツケを吸収できないから、生活はひたすら貧しくなっていくだけである。
モノの価格の上昇によって起こるインフレは、「コストプッシュ・インフレ」とも呼ばれている。日本人は、このコストプッシュ・インフレを1970年代のオイルショック時に経験している。
1973年、OPEC加盟6カ国は1バレルあたり3.01ドルだった原油公示価格を5.15ドルに引き上げ、翌年には一気に11.65ドルまで引き上げた。これにより、日本では「狂乱物価」と呼ばれる物価上昇が起こり、人々はトイレットペーパーを買うために行列するというような騒ぎが起こった。
これと同じことが、昨年春のコロナ禍の当初、マスク不足で起こったが、これはマスクだけの価格高騰だった。しかし、今後、想定されるインフレは単独商品の価格高騰ではない。ほぼすべての商品、資産価格が上昇する。まさに、本当のスタグフレーションがやってくる。
やがて襲い来るスタグフレーション
現在、富裕層、別名「haves」(持っている人たち)を中心に、インフレに備えた資産シフトが起こっている。それは、金融資産から実物資産へのシフトだから、インフレはますます進むかもしれない。
悪材料はまだある。原油、非鉄金属、穀物などのほかに、産業のコメとされる半導体も、現在、世界的に供給不足になっていることだ。すでに、トヨタなどの大手メーカーは減産を余儀なくされている。そのせいもあり、中古車価格が上昇している。
こうした物価上昇に追い打ちをかけるのが、円安の進行だ。日銀の異次元緩和により、円の価値は低下し、このまま行けば現在を超える円安になりかねない。そうなると、輸入品は軒並み値上がりすることになる。
さらに悪材料を上げれば、今後、日本は脱炭素社会に向けて巨額の投資をしなければならない。しかし、この巨額投資はすぐにリターンは得られない。となると、コロナをなんとか収束させても、低成長からは脱出できない。
日本経済が日本国内だけで完結していれば、低成長でもデフレならば、生活水準の低下はなんとか免れただろう。しかし、グローバル経済で世界と密接に結びついている以上、そうはいかない。
主要国経済がインフレ基調になり、金利も上がれば、それがダイレクトに影響し、輸入品の価格は上昇するし、日本の金利も上がることになる。
市中金利が上がれば、日本の国債市場も無縁ではいられない。財政状況が最悪のこの国を、スタグフレーションが襲うのは本当に悪夢だ。しかし、そういう将来があるとして、これに備えなければ、私たちの将来はない。
(了)
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