連載632 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(下)

連載632 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(下)

(この記事の初出は8月31日)

ベトナム敗戦とアフガン敗戦の違いとは?

 ベトナム敗戦がドルショックを招いたように、今回のアフガン敗戦が、財政、金融危機を招くのではないかという懸念がある。アフガン脱出の混乱を見て、サイゴン陥落時の混乱を思い出した人は多い。あのとき、アメリカの大使館員と関係者はヘリコプターで逃げるように脱出した。ヘリコプターはサイゴン沖で待ち受ける空母に着艦して脱出者を降ろすと、海に捨てられた。

 カブール空港で繰り広げられた光景は、あのときよりさらにおぞましいものだった。なんと、飛び立つジェット機にしがみついた人間までいたのだ。

 こうした光景を目の当たりにすれば、カブール陥落はサイゴン陥落と同じく、アメリカの失敗を象徴するものと言っても過言ではない。

 しかし、両者は明らかに違うという見方、意見もある。違いの一つは、ベトナム敗戦はアメリカが喫した初めての敗戦であり、今回のアフガン敗戦は敗戦がだいぶ前から予測できたいた点で、衝撃度が違うということ。もう一つは、ベトナム戦争を戦ったのは、徴兵された何百万人もの兵士だったが、アフガン戦争は志願兵で、その数はベトナム戦争に比べたらはるかに少なかったことだ。

経済面とスケール面から見ると深刻

 しかし、以上は戦争面から見た側面であり、経済面から見ると、アフガン戦争のほうがはるかにダメージが大きいとする見方がある。

 それは、これまでアメリカがアフガンに投じた金額が、2兆ドルとされるからだ。これは、日本のGDPの半分に匹敵する莫大な支出である。

 この額と、コロナ禍による財政支出が、アメリカの財政赤字を大幅に悪化させたのは間違いない。

 また、脱出の規模を見ても、今回のカブール脱出はスケールが違う。サイゴン陥落時は、アメリカ人が1373人、ベトナム人などアメリカ人以外の関係者5595人がヘリコプターで脱出し、空母に収容された。

 しかし、今回の脱出では、アメリカ人以外に、アメリカ政府への協力者、アフガン政府の関係者を含めると、その数は5~6万人に達するとされた。さらに、崩壊した政府軍と国家警察隊を合わせると約30万人もいる。

 アメリカ軍の撤退は8月31日で完了したが、まだ、避難活動は続いている。しかし、脱出希望者全員を脱出させることはできない。

バイデンの大盤振る舞いで加速する赤字

 2021年度のアメリカの財政赤字は、議会予算局(CBO)の見通しによると、3兆30億ドル(約330兆円)となっている。これは、過去最悪だった2020年度の3兆1290億ドルに次ぐ水準で、この状況が続くと、アメリカの財政は破綻に追い込まれる可能性が高い。

 財政赤字は、バイデン政権になって加速している。バイデン政権は、今年の3月に、コロナ禍対策として6.4兆ドル(約704兆円)の追加の経済支援策を決め、現金給付1人1400ドルという大判振る舞いを行った。

 6.4兆ドルという額は、アメリカのGDPの約3割にあたり、この額は世界恐慌後に就任したフランクリン・ルーズベルト大統領が行った「ニューディール政策」の予算規模がGDPの約4割だったことに匹敵する。

 こうした大判振る舞いによって赤字は増加し続け、このまま行けば政府債務残高のGDP比は10年後の2031年度に106.4%と、過去最悪の1946年度にほぼ並ぶと予測されている。

 ふつう、これほどまでの大盤振る舞いをすれば、大統領の支持率は上がる。しかし、8月25日付けの「リアルクリア・ポリティクス」の世論調査では、不支持率が49.1%と半数近くに達している。これは、インフレが加速しているせいだろう。食品・飲料は、7月に前月比で0.7%上昇し、FRBが適正とする0.1%を大幅に上回った。

(つづく)

この続きは10月20日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。


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