連載633 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(完)

連載633 山田順の「週刊:未来地図」 アメリカ覇権の衰退とドル危機の再来か?(完)

基軸通貨が抱える大きな矛盾とは?

 財政赤字が巨額になれば、当然だが、ドルへの信認は揺らぐ。そうなると、やがてドルが基軸通貨でなくなる日がやって来ないとは言えない。もとより、財政状況が悪ければ、世界中に軍隊を展開することも、世界の親米国を援助することもできなくなる。そうすれば、アメリカの世界覇権は後退せざるをえない。

 基軸通貨のドルが金本位制でなくなったことは、アメリカにとって大きな利点をもたらした。財政赤字を気にせず、いくらでもドルを刷ることことができるようになったからだ。その結果、金融緩和が躊躇なく行われるようになり、前記したように、バブルがたびたび起きるようになったのだ。

 基軸通貨の発行は、覇権国の特権とも言える。しかし、その特権は大きな矛盾を抱えている。あまりにもドルを刷り過ぎて、財政赤字をコントロールできなくなれば、特権は失われ、複数の通貨による多極化した通貨体制になってしまうからだ。

 基軸通貨であるドルを世界に行き渡らせるためには、アメリカは世界中からモノやサービスを買う必要がある。前記したように、アフガンでアメリカは、定期的にドルを運んでいた。

 しかし、こうしてドルを世界に供給し続ければ、必然的に経常赤字になり、ドルへの信認が揺らいでしまう。これが基軸通貨が抱える大きな矛盾で、このことを指摘した経済学者のロバート・トリフィンの名前から、「トリフィン・ジレンマ」(Triffin Dilemma)と呼んでいる。

「暗号資産」と「法定通貨」のデジタル化

 基軸通貨がトリフィン・ジレンマを抱えている以上、アメリカはこれ以上財政赤字を拡大し続けるのは危険である。やりすぎると、本当に覇権を失いかねない。その隙を狙っているのが、中国である。いま、中国は「一帯一路」により、人民元の拡大も狙っている。

 アフガニスタンは言うまでもなく、中国の策定した「一帯一路」上に位置する。

 アフガニスタンでは、ドルの供給不足が日常化したため、富裕層が中心になって、ビッドコイン(BTC)などの「暗号資産」(Cryptocurrency)を活用するようになった。もちろん、テロ組織もタリバンも以前から暗号資産を活用し、資金繰りを行っている。通貨は、国家が発行するという「法定通貨」(Legal Currency)を超えようしているのだ。

 また、逆に暗号資産を法定通貨にしてしまおうという動きもある。たとえば、エルサルバドルは、世界で初めてビットコインを法定通貨に導入することを決めている。反対の声は根強いが、エルサルバドル政府は予定通り9月7日から実施するとしている。

 また、中国政府は、今年中にも「デジタル人民元」(e-CNY)を発行するとしている。

デジタル通貨によるゲームチェンジ

 こうした動きに危機感を持ったアメリカは、これまで消極的だったドルのデジタル化を進めざるをえなくなった。ケインズはかつて国家の枠組みを超えた「超国家的通貨」を提唱したが、ドルのような単一の法定通貨のデジタル通貨でなければ、各国政府は受け入れられない。いわゆる「中央銀行デジタル通貨」(CBDC:Central Bank Digital Currency)である。

 アメリカではいま、フェイスブックがドルを裏付けとする暗号資産「ディエムUSD」(Diem USD:Libraリブラから改称)を、2021年度内に発行する計画を進めている。

 はたして、アフガン敗戦は、ドルショックのような危機をもたらすのか? それとも暗号資産、デジタル通貨によるゲームチェンジをもたらすのか? 今後の動向に注意を払っていきたい。

(了)

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