連載637 山田順の「週刊:未来地図」 円安、株安、インフレが襲ってくる! 誰も止められなくなったコロナ不況と長期低迷 (下)
(この記事の初出は9月14日)
株価3万円超えで逆に高まる下落懸念
円安、インフレとともに懸念されるのが、株価の下落だ。
先日の株価3万円超えは、日本経済の現状から見て、説明がつくものではない。金融緩和でカネが余っているから、なにかきっかけがあれば上がるとしか言いようがない。すでに、日銀などの買い占めにより、市場にある株数は少ないので、火が点けば弱火でも上がるとしか言いようがない。
今回は、それが、菅首相の退陣表明だった。それにしても、ここまで一気の3万円超えを誰が予想しただろうか。「ワクチン接種さえ進めば経済の正常化が加速する」という見通しが崩れた時点で、株価の上昇はないと思われてきた。東京五輪後の8月20日に、日経平均が2万7000円を割り込んだとき、多くの個人投資家は「さらに下抜けするのではないか」と怯えた。
しかし、結果は逆になり、いまは、「早く買わないとさらに上がってしまうでは」と慌てている。
しかし、それだからこそ、今度は本当に下がるという懸念も高まっている。
実際、一時2万7000円を割り込んだ8月の第3週は、海外投資家は日本株の先物を3453億円売り越していた。しかし、2万7000円割れで達成感が出て「利食い買い」に走ったのか、第4週には3361億円の買い越しに転じ、退陣表明があった一9月第1週も3669億円を買い越している。日銀のETF買いが下火では、このような外国人買いがすぐ反映されるのだ。
しかし、コロナ禍のなかですでに今年2度3万円超えして、その後下落していることを思うと、この先の上昇余地は、経済的な見地からはありえない。
日本の株価が初めて3万円超えしたのは、1989年1月のこと。昭和天皇の逝去による自粛ムードのなかで、バブルが膨らみ相場だけが過熱していた。しかし、その年の年末に3万9000円台の史上最高値を付けると、翌1990年8月には3万円を割り込んで、バブルは加速度的に崩壊していった。
当時といまとでは経済の構造、状況が違うので比較すべきではないが、株価が社会のムードで動いている点はそう変わらないのではないだろうか。
NY株価に対して真っ二つに別れる評価
言うまでもなく、日経平均を含めて世界の株価を牽引しているは、NY株価である。このNY株価に対する評価が、このところ真っ二つに別れている。
昨年、投資会社ブラックストーンが「2021年度のS&P500は年度後半に4500まで上昇する」という予想を出したときは誰も信じなかった。昨年末S&P500は3700にすぎなかったからだ。しかし、8月末にはあっさりと4500を突破した。昨年末、NY株価は3万ドルの大台に乗せたが、ここが天井ではと言われていた。しかし、8月6日にあっさりと3万5000ドル台に乗せた。
そのため、まだまだ上がると強気のファンドが多い。そうしたファンドは、「GAFA」(Google、Amazon、Facebook、Apple)や「FANG」( (Facebook, Amazon,Netflix, Google)と呼ばれる巨大IT企業(ビッグテック:Big Tech)に集中投資して利益を上げている。
株価が上昇してから、アメリカではパッシブ投資より、こうしたアクティブ投資が主流になった。そんなファンドの一つARK(アーク・インベストメント・マネジメント)は、著名CEOのキャシー・ウッド氏がビッグテック株を大胆に組み入れて、昨年は高い運用成績を上げた。
しかし、今年はなぜかさえない。
FRBがテーパリングを表明したいま、ARKと真逆に、下落にポジションを取っているファンドも多くなっている。その代表的なのがサイオン・アセット・マネジメントだ。このファンドを運営するマイケル・バーリ氏は、かつてベストセラーとなった『世紀の空売り』(The Big Short)のモデルとして、一躍有名になった投資家である。
彼は、サブプライムローン崩壊時と同じように、今回は一部のハイテク企業の株価が割高であると考え、その暴落に賭けている。
(つづく)
この続きは10月27日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
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