連載650 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (中2)
賃金で見ると日本はもはや完全な後進国
スタグレフレーション下では、物価は上がっても賃金は上がらない。すでに、日本人の賃金は、OECD加盟国のなかでは最下位グループにあるから、国民生活への悪影響は計り知れない。
OECDの世界各国の年間平均賃金のデータ(2020年)を見ると、日本は3万8515ドルとなっている。
これに対して、アメリカは6万9391ドル、ドイツは5万3745ドル、フランスは4万5581ドル、イギリスは4万7147ドルと、日本よりはるかに高い。情けないのは、韓国の4万1960ドルより、日本が下ということだ。
このデータで日本より賃金が低い国は、旧社会主義国と、ギリシャ、イタリア、スペイン、メキシコぐらいである。
こうした現実になぜか政府は目を向けようとせず、メディアもおざなりにしか報道しない。小室圭と眞子さまの「NY逃避行結婚」の報道で、「NYは物価が高いから心配ですね」などとコメンテーターに言わせている。
しかし、NYの物価が先進国標準で、日本が後進国並みに安いのである。賃金も同じだ。賃金は、その国で普通に暮らせるレベルに合わせて決まる。したがって、日本の賃金レベルでは、ひとたびスタグレフレーションが起これば、まともに暮らせないことになる。
なぜ日本人の給料は上がらなかったのか?
ではなぜ、日本では賃金が上がらなかったのか?
その理由はいたって簡単だ。最大の理由は、「失われた30年」と言われるように、日本がほとんど経済成長しなかったからである。
経済成長は、人口増加と労働生産性の伸びによってもたらされるが、日本は人口減少に陥ったうえ、イノベーションも起こらず、ただ漫然と同じ日常を続けて、世界から取り残されてしまったのである。
改革のチャンスはあった。たとえば、正規雇用の労働流動性を高め、年功序列、終身雇用システムを止めていれば、日本人の給料は世界基準を維持できていやだろう。
しかし、これまで日本がやってきたのは、非正規雇用を増やして、彼らに正規雇用の仕事をさせるという逆行政策だった。
21世紀が始まるまで、日本人の賃金はそこまで低くなかった。しかし、その後の20年間で著しく低下した。というより、他国が増えたのに、日本は横ばいだったため、差が広がったのである。
年間平均賃金について、2000年を1.0とすると、韓国は1.45倍、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどの欧米諸国は、1.2倍になっている。ところが、日本は1.02倍でしかない。
アベノミクスは日本の労働者を貧しくさせた
日本人の賃金低下に拍車をかけたのが、アベノミクスである。アベノミクスの成功例として挙げられることに、7年半で雇用が100万人増えたということがある。しかし、増えたのは、ほとんどが非正規雇用である。
前記したOECDのデータだと、2010年の日本の年間平均賃金は3万8085ドルで、韓国の3万6140ドルよりは上だった。ところが、2020年は3万8515ドルとわずか500ドル弱しか伸びず、韓国が4万1960ドルと5000ドル以上伸ばしたのに、はるかに及ばない。
OECDのデータにあるように、各国のデータはドル換算で表される。つまり、そのときの自国通貨とドルとの為替レートに左右される。
この点から見ても、アベノミクスは「円安誘導」政策だったから、国際比較から見て賃金が下がって当然だった。
為替政策では、経済成長をさせることはできない。イノベーションと生産性の向上によって富を創造することで経済は成長する。つまり、円安誘導という量的金融緩和による為替政策は、単なるカンフル剤にすぎず、あまりに長くやると経済は死に体になってしまう。
このように、アベノミクスは日本の労働者を貧しくしただけだった。それをいまさら、格差の是正と言っているのだから、日本の政治は支離滅裂である。
(つづく)
この続きは11月15日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。