連載651 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (中3)
スタグフレーションでは貨幣の価値が下がる
では、ここで、スタグフレーションについて整理してみよう。不景気のなかで物価が上がるというスタグフレーションでは、次のような悪循環が起こる。
景気が悪いのに物価が上昇する→景気が悪いから給料は上がらない→消費が減ってさらに景気が悪化する→貯金、現金の価値が低下する
この循環のなかで、貯金、現金の価値が低下するというのは、国民生活にとって最悪である。給料が上がらずに物価だけが上がっていくため、同じ金額で買えるモノが減る。つまり、おカネを持っていることが、大きなリスクになるのだ。
日本人は、貯金が大好きだが、それは貨幣価値が将来も変わらないという前提があってこそ可能なこと。インフレもそうだが、とくにスタグフレーションにおいては、現金や預金を持っていることは自殺行為になってしまう可能性が高い。
したがって、インフレの常識として、資産は株や不動産、金(ゴールド)など持つということが、これまで言われてきた。これらの資産は、「インフレに強い資産」とされてきたからだ。しかし、現在の量的金融緩和という異常な状況下で、そんな単純なことでいいのだろうか?
日銀の本来の役割はインフレの抑制
今日まで日本政府と日銀は、量的緩和によって、意図的にインフレをつくり出そうとしてきた。物価上昇のターゲットを2%として、量的緩和を進めてきた。
しかし、この方法は本末転倒である。なぜなら、量的緩和はおカネをジャブジャブにすることだから、それによって当然、貨幣価値は低下する。そうなれば、インフレによる物価上昇は起きるかもしれないが、景気が良くなるとは限らない。つまり、日銀は目的と手段を間違えていると言えるのだ。
中央銀行の本来の役割は、インフレを抑えることである。物価上昇が起こったら、金利を上げて、インフレの加熱を抑えるのが中央銀行の役割だ。そのため、日銀は、日銀法によって「物価の安定」を義務づけられている。日銀は、インフレが進行すれば、短期政策金利を引き上げねばならない。
ところが、量的緩和をやってしまったため、日銀は金利引き上げの手段をほとんどなくしてしまった。現状では、日銀当座預金への付利金利の引き上げしか方法はない。はたして、そんなことができるだろうか?
それを行えば、積み上がった539兆円もの巨額の日銀当座預金残高の付利の支払いで、日銀は債務超過に陥りかねない。
付利が1%なら5.39兆円、2%なら10.78兆円。2020年度の日銀の純利益は約1兆4500億円で、損失に備えるための引当金勘定等が10・8兆円、合わせて約12兆円だから、不利が2%を超えると日銀は債務超過になる。
国と日銀がどう動くかで未来は変わる
以上のようなことを鑑みると、日本のスタグレフレーションでは、これまで言われてきたような、インフレ下の資産防衛術は単純には適応できないと思える。
最大の問題は、日銀がこれまで行ってきた量的金融緩和は、黒田東彦総裁が「異次元緩和」(=バズーカ砲)といみじくも言ったように、人類史上誰もやったことがないからだ。
インフレになったら、日銀は金利を上げる義務があると言っても、それをやれば日銀自身が破綻する。
すでに、日銀は、財政法の規律を破って、国債の引き受けという「財政ファイナンス」を行っている。市場から買っているとしているが、それは方便にすぎない。よって、金利を引き上げることによるインフレ抑制を行わないで、放置してしまうことも考えられる。
政府も日銀も量的緩和を止める決断ができず、量的緩和をずっと続ける可能性がある。欧米がテーパリングをやっても、日本だけやらない可能性がある。そうすると、円の価値は際限なく下がり、インフレはハイパーインフレとなってしまう。
(つづく)
この続きは11月16日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。