連載658 教育を変えられない絶望ニッポン もはや若者はこの国を捨てるほかないのか? (完)
日本の大学を捨て海外大学に直接進学
このような経緯を見れば、この先も日本の教育は変わらないのは間違いない。少なくとも、いまの政治家たちが実権を握っている限り、この状況は続くだろう。
そこで、目覚めた親や子どもたちは、とうの昔から、反乱を起こしている。日本の教育で育ったら未来はないと、財力のある家の子どもたちは、初等教育の段階から海外留学をするようになった。
国内では、インターナショナルスクールが人気となり、有名インターは狭き門となった。
そして、最近の傾向としては、高校からいきなり欧米の大学に直接進学するケースが増えている。たとえば、以前から海外大学進学に力を入れてきた私立中高一貫校の広尾学園では、2020年度は212名を海外に送り出した。2019年度が79名だったから、なんと3倍増だ。東大進学のためにあると言っていい「御三家」の麻布、開成、武蔵も、東大は滑り止めでハーバード、スタンフォードなどを第一志望する生徒が増えている。開成の場合、2020年度は36人が海外大学に進学した。
私立ばかりではない。公立校でもこの傾向は顕著になっている。海外留学希望者の多い東京都立国際校からは、2020年度、88名が海外大学に合格している。一般の効率、それも地方の公立校から、いきなり海外の名門大学に進学するケースも増えていて、かつてはこうしたケースはメディアに取り上げられたが、いまでは地方紙もほとんど取り上げなくなった。
明治革命の成功は教育の普及にあった
教育のために、日本を捨て海外へ。といっても、それができるのは、裕福な家庭だけだ。それを思うと、いま政府がしなければいけないのは、教育先進国とされるデンマークやフィンランドなど見習って、そのレベルまで公立校のレベルを上げることだ。
これは一朝一夕でできることではないが、明治政府はそれをやった。明治新政府は、政府ができると同時に国民教育に乗り出し、明治2年(1868年)には、一般子弟のための小学校を開校している。そして、明治4年1871(明治4)年の文部省の新設とともに、欧米にならった教育制度を導入し、大学までのコースをつくっていった。
明治政府の教育に対する姿勢は、「学問は国民各自が身をたて、智をひらき、産をつくるためのもの」というものだった。
いまの政治家たちの最大の問題は、日本の教育がもはや世界から大きく遅れている、日本の教育では今後の社会を生きられないという認識がないことだ。
昔は「読み、書き、そろばん」と言ったが、いまは「英語、プログラミング、考える力」だろう。
明治革命が成功し、日本が近代国家たりえたのは、西洋流の近代教育を広く全国民に行き渡らせたからだ。日々、経済衰退し、貧しくなって行く国で、なぜ、教育をおざなりにするのか、私にはまったくわからない。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。