連載663 「新しい資本主義」は看板だけ、 そもそも日本は自由な資本主義国ですらない (上)
日本経済はこれから「新しい資本主義」に生まれ変わるのだと、政府は言い出した。しかし、どこからどう見てもなにも新しくないうえ、そもそも言い出した首相自身がわかっていない。「新自由主義と決別」と言っているが、日本が新自由主義であったことなどない。
結局、このまま日本経済は沈んでいくだけ。しかも、この先はスタグフレーションになる可能性が高いうえ、財政支出のツケが増税となって国民生活を降りかかってくるだろう。
首相が宣言し、内閣府に「実現会議」を設置
岸田文雄首相は、内閣府に「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田首相)を設置し、今後、有識者と会議を重ねながら「新しい資本主義」を始めると宣言した。
現在、内閣府のHPには、次のようなメッセージが掲載され、「新しい資本主義」が紹介されている。
《「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、内閣に、新しい資本主義実現本部を設置しました。》
こうした動きを受けて、読売新聞は11月5日の紙面で、『賃上げ企業の税優遇を拡充、大学10兆円ファンド…「新しい資本主義」案 』という解説記事を掲載した。
それによると、「新しい資本主義」とは「格差の是正を図りつつ、長期的に持続可能な資本主義」で、政府は今月中に経済対策を集約し、2021年度補正予算と2022年度予算を事実上の「15か月予算」として一体的に編成するという。
そのポイントは、まとめると次のようになる。
▽来年度税制改正で、賃上げに積極的な企業への控除率引き上げ
▽10兆円規模の大学ファンド運用を今年度中に開始
▽デジタル、グリーン、人工知能などの研究開発を複数年度にわたり支援
▽看護、介護、保育の収入を増やすため、当面の賃金引き上げを来年度予算案で検討
なぜいま「新しい資本主義」を目指すのか?
こうした政府のHP、新聞の解説記事を読んで、「新しい資本主義」がなんなのか? わかる人はいないだろう。私もまったくわからない。「新しい」と言う以上、なにか新しいものがなければならないが、それがない。
それがないから、ただの看板だけ。いままでやってきたことを言い換えてごまかしてだけに思える。
そして、なによりも、首相自身が「新しい資本主義」ばかりか、資本主義、経済そのものを理解していないと思える。これまでの経過を見れば、この言葉が、ただの言葉遊びから生まれたとしか言いようがないからだ。
先の自民党総裁選のとき、この言葉を持ち出した首相は、「なぜいま新しい資本主義なのか?」と聞かれて、二つのことを挙げた。
一つは、これまでの「新自由主義的な政策」が「富める者と、富まざる者との深刻な格差を生んだ」ので、その弊害を正すことが必要なこと。つまり、「新自由主義からの決別」が「新しい資本主義」ということ。
もう一つは、それに加えて、安倍政権、それを継承した管政権のアベノミクスを「修正することが必要」だということ。
アベノミクスは、成長重視で株価至上主義。「いわゆる新自由主義的な競争一辺倒の政策」だったが、それを修正し、「長期的な持続性重視に転換する」と、当時、総裁候補者だった首相はテレビ出演などで何度も繰り返した。
しかし、それのどこが新しのだろうか? また、資本主義などという大きな概念でくくる必要があるのだろうか?
(つづく)
この続きは12月6日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。