連載665 「新しい資本主義」は看板だけ、 そもそも日本は自由な資本主義国ですらない (中2)

連載665 「新しい資本主義」は看板だけ、 そもそも日本は自由な資本主義国ですらない (中2)

 

新自由主義は「市場原理主義」とも言える

 新自由主義がクローズアップされるきっかけとなった本がある。経済地理学者デヴィッド・ハーヴェイの『新自由主義-その歴史展開と現在』(邦訳2007年刊、渡辺治監訳、作品社)だ。

 ハーヴェイは新自由主義を、次のように定義している。
《新自由主義とはなによりも、強力な知的所有権、自由主義、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの範囲内で個々人の企業活動の自由とその能力とが無制約に発揮されることによって人類の富と福利が最も増大する、と主張する政治経済的実践の理論である》

 要するに、経済活動がなにからも束縛されず自由に行われることであり、乱暴な言葉に置き換えると「野放図な資本主義」である。経済学的に言うと、「市場原理主義」と呼んでもいい。

 そこで、問いたい。日本経済は本当に野放図で自由だろうか? アベノミクスは、本当に新自由主義だったのだろうか?

終身雇用、年功序列は社会主義システム

 かつて日本は、「日本は世界でもっとも成功した社会主義国」と皮肉られたことがある。これは、皮肉ではなく本当だ。

 日本企業は、欧米では見られない終身雇用、年功序列システムで運営されている。非正規雇用が4割に達したとはいえ、いまだに多くの企業がこれを守っている。

 そうして、社長から平社員までの給与格差は小さく、手厚い福利厚生、雇用保障がある。さらに、仕事の能力とは関係なく、家庭事情に基づいて支払われる手当もある。

 この日本型システムは、どう見ても社会主義、共産主義的であり、資本主義とは言えない。この日本型システムの典型が官僚組織であり、彼らが経済に介入して経済政策を仕切っているので、日本は欧米型の自由な資本主義国とは言えないのだ。

 どちらかと言えば、中国型の「国家資本主義」(statecapitalism)、あるいは「縁故資本主義」(cronycapitalism)である。

 このシステムは戦時下に生まれ、戦後もずっと続いてきた。ソ連と同じような計画経済の下、「護送船団方式」「ケイレツ」「持ち合い」などにより、ソ連と違って大成功を遂げた。しかし、バブル崩壊後のグローバル経済では通用しなくなり、「金融ビッグバン」「小泉構造改革」などで変貌したが、それでも現在までしぶとく生き残ってきたのである。

 アベノミクスは、その延長線上にあり、どこから見ても新自由主義ではない。

(つづく)

 

この続きは12月8日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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