連載666 「新しい資本主義」は看板だけ、 そもそも日本は自由な資本主義国ですらない (下)
「トリクルダウン」が起きなくて当たり前
アベノミクスを新自由主義と言って、「トリクルダウンが起きなかった」「格差が拡大した」と批判する人々は、歴史も経済も知らない愚か者だ。
トリクルダウンが起きず、格差が拡大したのは、アベノミクスが新自由主義ではなく、典型的なケインズ主義(Keynesianism)、社会主義(socialism)の政策だったからである。
誰がなんと言おうと、これまでの自民党政権、そしてアベノミクスは新自由主義ではない。中央銀行に大規模な金融緩和をさせ、財政出動を繰り返す政策は、新自由主義と真反対の政策だ。借金による財政拡大で「大きな政府」をつくり、日銀に株を買わせて、民間企業を国営企業にしてしまうようなやり方は、明らかな左翼政策であり、保守政党がやることではない。
ところが、日本では自民党を保守、安倍政権を極右とまで言うメディア、評論家がいるのだから、あきれてものも言えない。
縁故資本主義システムの下で、ケインズ主義、社会主義政策を行えば、産業の競争力は失われる。まして、日本は人口減社会で、どうやっても需要は減り続け、消費は減退していく。
それなのに、岸田政権は「分配」を重視して、「新自由主義からの決別」を唱え、「新しい資本主義」を目指すと言うのだから、支離滅裂だ。いったい全体、本当にどうしようというのだろうか。
コロナ収束後は「増税時代」が到来する
ここまでコロナ禍で、巨額の財政出動をしてきた政府が、今後、直面するのは、この巨額の赤字をどうやって穴埋めするかだ。日本は感染者数が激減したとはいえ、世界を見れば、まだコロナ禍は続いている。そのため、増税などを打ち出すタイミングではない。
岸田首相も、当初、提唱していた「金融所得課税」を引っ込め、消費税に関しても「いまの段階で消費税を触るべきでない」と述べている。
しかし、いずれそうは言っていられなくなる。実際、水面下では、東日本大震災の後に実施された「復興税」のようなものが計画されている。通常の所得税や法人税に、「コロナ特別税」として上乗せするというものだ。
コロナ禍がなくとも、すでに日本は「増税路線」を突っ走っている。高齢化で、年金、医療費などの社会保障費がかさみ、増税しなければ財政がもたなくなっているからだ。
これまでの消費税の増税は、みなそのためと言える。しかし、その増税分がどう使われたのかはブラックボックスである。
首相は「いまの段階で触るべきではない」と言ったものの、いずれ消費税を15%にしなければならないときがやって来るだろう。すでに、2023年10月から、消費税にインボイス制度が導入されることが決まっている。
これまでは事業収益1000万円以下の小さな事業者は消費税を免除されていたが、インボイス導入後は支払わなければならなくなる。
このように、コロナ収束後は「増税時代」が到来するのは確実だ。
(つづく)
この続きは12月9日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。