連載675 なぜ、イーロン・マスクが世界一の金持ちなのか? バブル崩壊はテスラ株の暴落から始まる (下)

連載675 なぜ、イーロン・マスクが世界一の金持ちなのか? バブル崩壊はテスラ株の暴落から始まる (下)

 

自動運転時代のクルマはシェアリングが主流

 また、自動運転化が進み、安全対策が確立されれば、マイカーというライフスタイルはなくなる可能性がある。シェアリングエコノミーの一環として、EVのシェアリングが広く行われるようになる。となると、自動運転EVはタクシー化するわけで、そのときは、社会に必要な自動車の台数は大きく減るだろう。
 マイカーを持てば、車両本体のコストはもちろん、車検、駐車場、ガソリン代、税金などのコストがかかる。シェアリングへのインセンティブは高い。
 すでに中国の深?では自動運転バスが走っている。タクシーもEVに置き換わっている。少なくとも2030年には、自動運転はほぼ実現しているだろう。
 となると、クルマを大量に販売して収益を上げるというビジネスは、縮小していくことになる。物流を担う車両は別として、マイカーの将来を考えた場合、もう規模の経済は成り立たないだろう。

宇宙でもライバルのジェフ・ベゾフを揶揄

 現在、イーロン・マスク氏は、調子に乗っていると言える。人類の未来を切り開くということで宇宙事業を進めるのはいいが、ほかの大富豪、たとえばジェフ・ベゾフ氏をツイッターで揶揄するのはいただけない。なんと、マスク氏はベゾス氏のツイッターの投稿を引用する際に、銀メダルの絵文字を付けたのだ。
 大富豪番付で自分が金メダルになったことを、強調するためである。
 テスラ株はもちろん、宇宙事業の「スペースX」の株も、マスク氏の「大富豪人類No.1」に貢献している。スペースXの株価の時価総額は10月に1000億ドルを突破し、マスク氏はそのうち106億ドルを売却した。
 スペースXは非公開会社のため、詳細は不明だが、マスク氏はスペースXの過半数の株式を持っていると言われている。
 ちなみに、ジェフ・ベゾフ氏も宇宙事業を立ち上げ、マスク氏に対抗している。大富豪2人は完全なライバルの関係にある。
 ベゾフ氏の宇宙企業「ブルーオリジン」は、人工衛星の打ち上げ、同じロケットの再利用という事業方式を取っている点で、スペースXと同じだ。しかし、違う点がある。
 それは、ベゾフ氏はまず月に着陸する技術の確立を目指すとしているのに対し、マスク氏は火星を目指していることだ。

利用者(ユーザー)が少ないのになぜ金持ちに

 ここのところ、マスク氏は持ち株をさかんに売却している。マスク氏は11月初め、保有するテスラ株の10%を売却すべきか賛否を問う投票をツイッター上で行った。
 その結果は、過半数が売却を支持。それを受け、11月8日以降、1070万株を購入するオプションを行使し、1010万株を109億ドルで売却したと、「CNN」や「ウォールストリート・ジャーナル」などが伝えた。
 それらの記事の読者コメントを読んで、これは言い得ているものがあったので、ここでお伝えしたい。その要旨はこうだ。
「イーロン・マスクは世界一の金持ちになったが、テスラのビジネスも宇宙のビジネスも、世界中の人々が利用しているわけではない。EVはまだ普及していないし、宇宙旅行に行ったのは数人だけ。それに比べて、マイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブックなどのビッグテックは世界中で何億という利用者(ユーザー)がいる。なぜ、ビル・ゲイツなどより、マスクのほうが金持ちになれるのか。不思議ではないか」
 こう言われると、たしかにそうだと思う。テスラにしてもスペースXにしても、それを支えるユーザー数は圧倒的少ない。テスラはとくに、いまの段階では「虚業」としか言いようがない。

なぜGAFAMは規模を拡大できたのか?

 ここで「規模の経済」に戻って、GAFAMについて考えてみたい。現代のアメリカ、いや世界をリードするビッグテックは、いずれもネットの発展とともに成長してきた。よく、日本になぜGAFAMのような企業が生まれなかったの
か?
 中国には「アリババ」や「バイドゥ」などができたのに、なぜ日本にはできなかったのか? ということが言われるが、それは「規模の経済」で説明がつく。
 製造業が中心だった20世紀においては、企業の成長は規模の拡大にあった。モノをたくさん売ることが収益拡大につながった。よって、規模の拡大ができなければ、利益の低減につながる「収穫逓減の法則」が働いた。
 そのため企業は、国内マーケットが飽和すれば、世界に出て世界マーケットを目指した。しかし、それには乗り越えなければいけない壁が多かった。言語、文化、システムなどの壁だ。
 しかし、モノを売るのではなく情報とコミュニケーションを売るビッグテックには、この壁はほとんどない。英語は世界共通語であるし、コンピュータ言語でもある。「収穫逓減の法則」は働かない。こうして、グーグルもアップルも、ユーザーは全世界に広がった。そして、あっという間に巨大企業になった。
 中国の場合は、もともと国内市場が大きかった。14億の人口だけで、アメリカ+欧州の人口より多いのだから、アリババやバイドゥができて当然だった。

(つづき)

 

この続きは12月24日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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