連載678 “環境少女”の言うことを聞いてはいけない!
アメリカとドイツ(欧州)が陥ったインフレの罠 (中)
なぜアメリカは石油価格を下げられないのか?
このように、日本のようなエネルギー輸入国は、いま、本当に苦しんでいる。しかし、アメリカは違う。いまや石油産出国である。シェールオイルにより、石油輸出国に転換した。
それなのになぜ、石油価格を下げられないのか?
バイデン大統領がこれまでにやったのは、「FTC」(連邦取引委員会)に対して、ガソリン価格の調査を要請したことだけである。普通に考えれば、国内のシェールオイル開発を促進し、シェールオイル業者に増産を要請すればいいだけだ。なのに、それができない。
というのは、民主党内の「環境正義派」(Environmental Justice)や「環境活動家」(Eco-activist)の抵抗が強いからである。化石燃料の開発は「悪」である。これ以上の開発、増産などとんでもないというのが彼らの主張だ。
「グリーンニューディールを進める」などと宣言したことが、アダとなっているのだ。
その結果、バイデン政権はプライドも捨てて、中東産油国に増産を要請した。日本の政治家のように国内向けの嘘ではなく、本気の要請である。
しかし、産油国側は聞く耳を持たない。彼らにとって、このまま1バレル80ドル前後の価格をなるべく長期間維持することこそ、幸せなことはないからだ。
コロナの再ブレイクとインフレのダブルパンチ
アメリカと同じように、欧州全域でもインフレが加速している。上昇度は各国でバラツキがあるが、最近、コロナの再ブレイクに陥ったドイツはとくにひどい。ドイツのコロナ再ブレイクは、もはや手がつけられない状況だ。ワクチンの2回接種を済ませた者は、「PCR検査不要、マスク不要、規制なし」とした結果、1日に6万人以上という記録的な感染者数を出してしまった。
ミュンヘンのカトリック大司教ラインハルト・マルクス氏、デュッセルドルフ市長のヒンケル氏などは、2回接種済みなのに陽性となり、ザールラント州大臣クラウス・ブイヨン氏にいたっては、ブースター接種済みで陽性となったことが報じられた。
こうしたコロナ再ブレイクのなか、インフレが進み、10月の消費者物価指数は前年同月比で4.6%も上昇し、約30年ぶりの高水準に達した。そのため、ガソリン価格はアメリカ以上に高騰し、業を煮やした電力会社も電気代の値上げを次々に発表した。
そんな折、メルケル首相がコロナ対策で行動制限を再度強化することを決めたため、国民の不満は一気に高まった。
ドイツのインフレを招いた原因は、主に資源価格の高騰にある。しかし、元をただせば、自らの環境政策にある。
(つづく)
この続きは1月6日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。