連載698  地球温暖化の不都合な真実(1) 長期的に見れば「氷期」に向かっているのか? (完)

連載698  地球温暖化の不都合な真実(1) 長期的に見れば「氷期」に向かっているのか? (完)

 

気温上昇は過去のどんなときよりも速い 

 現在の温暖化が周期的なもので、じつは地球は寒冷化に向かっているという見方を、IPCCや多くの学者が否定している。それは、年々、「気候変動」(climate change)がひどくなっているからだ。
 気候変動の原因が温暖化によるものだというのは、いまや確定していると言っていい。
 最近のアメリカでの研究によると、冬季に北米を襲う異常な寒波は、北極の温暖化が加速していることが原因だという。北極地域の温暖化によって極循環と呼ばれる大気の循環が乱れ、寒気を北米南部まで押し下げている。
 昨年、起こったテキサスの大寒波は、そのせいだという。先日のカナダのマイナス51度も、同じ現象と考えられている。
 もう一つ、現在の温暖化が周期的でないものなのは、温暖化のスピードが異常に速いことで明らかだという。前記したように、温暖化が始まってから150年ほどで、地球の気温は約1度上昇した。これを私は、わずか150年ほどのことではないかと軽視したが、じつは、気温上昇のスピードは過去のどんなときよりも速いというのだ。

氷期は来ないかもしれないという説もある

 こうした急激な気温上昇は、ミラコビッチ・サイクルが指摘した日射量の変動のみでは説明できない。そのため、本当の原因が、人類が排出を増大させた二酸化炭素などの「温室効果ガス」(greenhouse gas)に求められたのである。そうして、この二酸化炭素犯人説は、もはや揺るぎのないものとなっている。
 また、太陽からの日射量の変動は、10万年単位まで理論的に計算できるので、それにより将来予測をすると、今後3万年以内に氷期が訪れるとは考えにくいとも言われている。
 さらに、今後ずっと氷期は来ないとする見方もある。
 というのは、ミラコビッチ・サイクルで氷期が来るタイミングが訪れたとしても、人類が温室効果ガスを増やしすぎてしまったので、氷期は来ないというのだ。人類活動の影響が大きすぎて、それが自然を変えてしまったため、これまでのようなことが起こらなくなる。その可能性がないとは言い切れないというのである。
 このようなことを総合して考えると、次のような結論になる。
《人類の活動が地球温暖化をもたらした。それにより、産業革命以後、地球温暖化が進んだ。そして、地球温暖化が加速することによって、大きな気候変動が起こるようになった。》

 

温暖化がヨーロッパに悲劇をもたらした

 最近私は、『千年前の人類を襲った大温暖化―文明を崩壊させた気候大変動』(ブライアン・フェイガン著、2008、河出書房新社)という本を読み、なるほどと納得させられた。ブライアン・フェイガン氏は、UCサンタバーバラの人類学の名誉教授で、世界的に著名な学者だ。
 この本によると、中世の温暖化がバイキングの活動範囲を広げ、ヨーロッパに富をもたらした反面で、温暖化による悲劇も起こっていた。モンゴルの侵略による大虐殺である。
 それまで、モンゴル人たちは、中央アジアのステップ地帯で遊牧をしながら暮らしていた。ところが、温暖化による大規模な干ばつに見舞われ、食料の供給が絶たれてしまった。食いつめたモンゴルの諸部族はチンギス汗の下に結集し、一丸となって大征服事業を始めたのである。
 モンゴル帝国は、中央アジア全土を征服後、ヨーロッパに矛先を向けた。チンギス汗の孫のバトゥはロシアを制圧すると、さらにポーランドとハンガリーを侵略し、その勢いはヨーロッパ全土を征服するほどだった。
 しかし、二代皇帝オゴディが死去したためにロシアに後退し、その後はロシアの支配に専念し、ヨーロッパに侵入することはなかった。
 地球温暖化というと、海水面の上昇ばかりが話題になるが、干ばつのほうがより深刻かもしれない。干ばつが長期にわたって続けば、人々は移動せざるをえなくなり、それが歴史の大変動をもたらす。
 大寒波とともに、最近は、干ばつが世界を襲っている。アメリカやオーストラリアでは大規模な山火事が発生している。やはり、温暖化は止めなければならないのだ。そういう結論になる。

 *次回は、はたして脱炭素政策で温暖化を止められるのか? 脱炭素の「不都合な真実」について考察します。

(了)

 

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

タグ :