連載702 地球温暖化の不都合な真実(2) 「脱炭素」を進めれば進めるほど貧しくなる! (完)
(この記事の初出は1月4日)
中国とインドの異議でIPCC声明は後退
世界の気温上昇は、産業革命以前(1850-1900年を基準とする)と比べて2011-2020年平均で1.09度上昇しているという。この気温上昇は、今後、加速化すると、多くの学者が警告している。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書(2021年8月)では、これまでの予測よりも10年早い2021-2040年に、気温上昇が産業革命以前から1.5度以上に達すると述べられている。
このIPCC報告書を受けて、昨年11月に、「第26回気候変動枠組条約締約国会議」(COP26)が開催されたが、特筆すべき進展はなかった。土壇場になって、中国とインドが共同声明の表現に対して異議を唱えたからだ。
共同声明は当初、非効率な石炭火力発電や化石燃料への補助金を「段階的廃止」(phase out)」としていた。これを、両国は「段階的縮小」(phase down)」に書き代えることを求め、それが通ったのである。
つまり、「脱炭素」のメインテーマである石炭を中心とする化石燃料による発電の廃止は一歩後退してしまった。中国とインドは、二酸化炭素の2大排出国であり、電力の多くを石炭火力に頼っている。そのため、これを削減すると、経済に大きな影響が出てしまうのだ。
「脱炭素」を達成するには、再生可能エネルギーへの全面転換が必要だが、それには莫大なコストがかかる。コロナ禍が続くいま、それを拠出できる財政を持つ国は世界のどこにもない。
人類に地球温暖化は解決できない
私は、人類は現在の地球温暖化を解決できないと思っている。それは、これまで述べてきたような「不都合な真実」と「経済的な理由」に加えて、産業革命以後に築かれた文明生活、豊かさを捨てることにつながるからだ。
いったい誰が、自ら貧しくなる道を選択するだろうか?
それに、地球環境を改造してしまうなど、人類の思い上がりが過ぎているのではなかろうか。温暖化は人類が自ら招いたことだから、それを自ら阻止することも可能だと考えているようだが、自然はそんな甘いものではない。
人類文明は、地球環境をコントロールできるところまで来ていないと、私は思っている。
脱炭素以外の解決策もあるのではないか?
最近、学者たちは温暖化対策として、温室効果ガスの排出量を減らすだけでなく、出生率を下げるとか、食生活を菜食中心に切り替えるとか、さまざまなことを提案するようになった。
生まれてくる子供の数を1人減らすことは、再生可能エネルギーへの転換以上の効果があると言う学説まで出ている。つまり、人類の人口を減らせば温暖化は防げるというのだ。
IPCC報告書の著者の1人である気候学者のシンシア・ローゼンツワイグ氏は、世界中のほとんどの人がヴィーガンになった場合、2050年までに二酸化炭素にして最大8ギガトン(1ギガトンは10億トン)相当の温室効果ガスの排出が防げると言っている。
これらの言説を知って、たしかにその通りだろうとは思う。しかし、そんなことまでしなければならないほど、温暖化は大問題なのだろうか?
温暖化を防ぐのではなく、温暖化に適応して生きていく。そういう道もあるのではないか? 脱炭素ばかりが正解ではないだろうと、このごろ私は強く思うようになった。
(了)
*次回(最終回)は、温暖化対策としての「環境移住」「環境移民」について考察します。明日、配信します。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。