連載704  地球温暖化の不都合な真実(3) じきに始まる「大移住・大移民時代」に備えよ! (中)

連載704  地球温暖化の不都合な真実(3) じきに始まる「大移住・大移民時代」に備えよ! (中)

(この記事の初出は1月5日)

 

温暖化を阻止できても世界は元に戻らない

 前回の配信で述べたように、私は、いまの状況では、地球温暖化は防げないと思っている。完全EV化、再生可能エネルギーへの転換などには莫大な投資が必要だし、たとえそれをやったとしても温室効果ガスがゼロになるとは限らないからだ。
 それに、人類は1度手にした豊かな生活を捨てるわけがないと思う。
 さらに、たとえカーボンニュートラルが達成されたとしても、それで地球の気候が産業革命前に戻るとは思えない。気温上昇を1.5度以内に抑え込めたとしても、そのとき、気候変動はなくなっているだろうか?
 気候変動というのは、どんな時代でも絶え間なく起こり、規模を変えながら続いていく。気候とはそもそもそういうものではないだろうか?
 新型コロナウイルスのパンデミックもそうだが、ポストコロナの世界が、コロナ以前の世界と同じになるとは限らない。同じように、地球温暖化を阻止できたしても、その後の世界がどうなるかは、わからないとしか言いようがない。

2070年までに35億人に被害が及ぶ

 さて、そうは言ってみても、地球温暖化は確実に進み、気候変動は年々拡大している。
 「じつは地球は温暖化などしていない」「温暖化のデータは捏造だ」という陰謀論はいっとき幅を利かせたが、最近の状況を見ると、もはや信じるわけにはいかなくなった。
 いまや気候変動は世界各地で猛威を振るい、多くの人の生活を窮地に陥れている。
 2020年5月、「米科学アカデミー紀要」に載った気象学者や考古学者、生態学者などによる国際チームの論文が注目を集めた。これを報道したCNN記事によると、論文は次のようなことを指摘していた。
 「この地球上でもっとも気温が高いのはアフリカのサハラ地域で、年間平均気温は29度以上。そうした過酷な環境に覆われている地域は地球の陸地の0.8%にとどまる。しかしこの極端な暑さは2070年までに地球表面の19%に拡大し、35億人に影響が及ぶだろう」
 「影響を受ける地域には、アフリカのサハラ砂漠以南、南米、インド、東南アジア、アラビア半島、オーストラリアなどが含まれる」
 「気温が1度上がるごとに、10億人が別の場所への移住を余儀なくされる」
 つまり、温暖化のペースが速まれば、猛暑地域に暮らす人々は、そこに住めなくなる。そのため、ほかの地域に移住せざるをえなくなる。いわゆる「環境移民」が大量に発生するというのだ。

世界銀行は環境移民を1億4300万人と推計

 論文が予測した35億人という環境移民の数は、なんと全人類の半数近くである。そんな数の人々が、住み慣れた土地を離れなければならない日が、本当に来るのだろうか?
 かつて、世界銀行は、環境移民の推計を公表したことがある。そこでは、南アジア、サハラ砂漠以南、中南米で、2050年までに1億4300万人が移住を強いられるとなっていた。移住を強いられる原因としては、気候変動による水不足、作物の不作、海面の上昇、高潮などが挙げられ、それらは年々深刻化していると指摘されていた。
 世界銀行が取り上げた地域には、もともと経済的、社会的、政治的な理由による難民が何百万人もいる。これに、環境移民が加わるとなにが起こるだろうか?
 間違いなく紛争が起こる。住民同士の争いが多発する。そうして、地域や国は不安定化するに違いない。
 そのため、各国は、移住者の増加に対応して、教育、研修、雇用の機会を改善するなどの対策を講じるべきだと、世界銀行の報告書は提言していた。また、気候変動の影響が厳しい地域の人々に対して、いまいる地域に止まるのか、あるいは新しい土地に移住すべきかについて、適切な判断を下せるようにサポートするべきだとも指摘していた。

(つづく)

 

この続きは2月14日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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