連載713 コロナ禍で深刻化するジェンダーギャップ
世界で最後の「女性差別大国」になるのか? (中1)
(この記事の初出は1月18日)
コロナ禍で追い詰められたシングルマザー
2020年の自殺統計(厚労省「自殺対策白書」)を見ると、働く女性の自殺者が、前年までの5年間(2015~2019年)の平均値と比べて約3割も増加している。年代別では29歳以下が6割増で、30~40歳代も約2割増えている。職業別では事務職や販売店員、医療・保健従事者の増加が目立っている。
日本は「ひとり親世帯」の貧困率が、欧米諸国に比べると極めて高い。OECDに加盟する主要35カ国の平均32.2%を上回り、48.1%にも達し、35カ国中ワースト2位である(令和3年版「男女共同参画白書」)。
このひとり親世帯の9割近くを占めるのが母子家庭、つまりシングルマザー世帯だ。シングルマザーの多くは正社員ではなく、パート、アルバイト、派遣社員など非正規労働者として働いていることが多いため、貧困率は高くなる。
しかも、日本は「同一労働同一賃金」が実現していないので、正規労働と非正規労働の賃金格差が大きい。この非正規労働の多くを担っているのが女性で、G7のなかで日本の非正規雇用率(有期雇用率)の男女差は突出しており、韓国よりもはるかに高い。
ちょっと古いが、「全国ひとり親世帯等調査」(厚労省2016年)によると、シングルマザーの平均年収は約200万円。日本の労働者全体の平均年収の半分以下である。この年収では、満足な子育てなどできるわけがない。日本の少子化が止まらないのも無理はない。コロナ禍により、シングルマザーたちは追い詰められ、一部が人生を悲観して自殺している構図が浮かび上がる。
テレワークができるのは男性正社員だけ
コロナ禍でテレワークが一般化したが、それを利用できるのは男性正社員たちばかりで、非正規の女性社員たちは出社を余儀なくされている。
テレワークの話をするたびに、「できる人はいいわね」と言うパートや派遣の女性就業者の声を、何度聞かされただろうか。
エッセンシャルワークは、テレワークではできない。それを担っているのは、多くが女性たちで、それによって日本経済が支えられていることを、エコノミストたちは指摘しない。
いまだに、日本はジェンダーギャップが大きい「役割分担」社会である。官庁や企業には、「家計の担い手は男性正社員であり、非正規労働者の賃金は家計を補助する程度で十分」という認識が、根強く残っている。厚労省は「標準家庭モデル」を、いまもなお専業主婦がいる家庭にしている。
採用や昇進、退職勧奨などでの男女差別を禁じる男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから、すでに35年がたった。しかし、この法律はザル法で、企業に「努力義務」を課しただけにすぎない。誰も、男女を平等に働かそう、その待遇を同じにしようなどとは考えてこなかった。
いまだに、一部の大企業の人事担当者は、「新卒採用で女性より男性を優先して採る。女性は結婚すると退社してしまうから」と言う。これにはあきれる。いったい、どんな時代を生きているのだろうか。
(つづく)
この続きは2月28日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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