連載718 どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(中1)
(この記事の初出は1月25日)
日銀の物価上昇率1.1%という大甘予測
首相もそうだが、日銀もやっていることは同じだ。リスク資産(株や不動産)を大量に買い入れ、さらに国債を事実上直接引き受けて、国家統制の社会主義経済を促進させている。
日銀は、首相の施政方針演説が行われた17日と翌18日に、金融政策決定会合を開いた。そうして、これまで通りの金融緩和を継続することを確認した。というか、それ以外、金融政策としてもうやりようがないのだ。インフレだからといって、アメリカや欧州のように金融緩和を手仕舞いし、金利を上げたら、自分たち自身が破綻してしまうからだ。
今回、日銀が公表したのは、2022年度の物価上昇率見通しを従来の0.9%から1.1%へと引き上げたこと。同じく、2022年度の実質成長率見通しを2.9%から3.8%へと引き上げたことだ。
驚いたことに、日銀は、当初目標の2%の物価上昇にはまだ時間がかかるという見解を示した。さらに、景気判断は、前回の「基調としては持ち直している」から「持ち直しが明確化している」に上方修正した。
すでに2021年11~12月の企業物価指数の前年同月比の伸び率は8~9%へ急上昇し、企業はコスト高に耐えられず続々値上げを発表しているというのに、この「大甘予測」はいったいなんだろうか?
もしかして、この予測は意図的なのかもしれない。なぜなら、インフレを認めたら、日銀はそれに対処しなければならないからだ。
経済の教科書には、こうある。「中央銀行は、物価の安定を主な目標として金融政策を行うことから、『物価の番人』と呼ばれています」
カザフスタンとトルコでなにが起こったか?
では、ここから世界に目を転じてみよう。
2022年がインフレの年だと象徴する出来事が、世界各地で起こっている。
年明け早々に驚かされたのが、カザフスタンの暴動だ。最大都市アルマトイでは、1月5日、デモ参加者の一部が暴徒化し、市庁舎や大統領の住居に乱入した。そのため、トカエフ大統領は内閣を総辞職し、ロシアに軍の派遣を求めた。
カザフスタンの暴動の原因は、政府が価格統制を撤廃したことだった。そのせいで、LPGやガソリンの価格が一気に2倍に値上がりし、それに怒った市民が行動を起こしたのである。
暴動までには至らないが、市民の抗議行動が続いているのがトルコだ。トルコ経済の混乱は、ここ何年も続いてきたが、昨年10月からの通貨リラの下落は、その混乱に拍車をかけ、国民生活を困窮に追いやった。
なにしろ、リラはドルに対し50%近く下落し、そのためインフレが亢進。インフレ率は21%に跳ね上がった。これは公式の統計で、実際には、物価は2倍近くになったという。
現地報道によると、小麦粉や食用油などの基本食品から電気、ガスといった必需サービスに至るまで、連日のように値上がりが続いた。しかし、給料も年金も据え置きのままだから、メディアのマイクに向かって国民はエルドアン大統領に対して怒りをぶちまけていた。
カザフスタンもイランも大統領が独裁を続けている「強権国家」である。かつてのベネズエラもそうだが、このような国ほどインフレに弱く、経済は破綻する。
(つづく)
この続きは3月7日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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