連載722  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(完)

連載722  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(完)

(この記事の初出は1月25日)

 

資産ヘッジの鍵はエネルギーと農産物

 株も不動産もあてにならないなか、もっともあてになると考えられるのが、今回のインフレの最大の原因となっているエネルギーと食料(農産物)だ。前者は欧州でグリーンフレーションを引き起こし、世界中でモノの価格を上げている。後者は、気候変動(地球温暖化)の影響で不作が続き、その結果、値上がりが続いている。
 こうした供給不足によるインフレは、それが解消されない限り続くので、インフレ時の資産ヘッジとしては、ほかの資産に勝る。
 そのことを再認識したのか、1月18日、ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、投資先企業に書簡を送り、脱炭素実現のために勘案されていた石油・ガス会社からの投資の引き上げを行わないことを表明した。
 石油や天然ガスなどのエネルギー資源と並んで鉄、銅、アルミなどベースメタル、リチウム、マンガン、パナジウムなどのレアメタルなどの鉱物資源も、インフレ率以上に値上がりしそうで、ヘッジには最適である。
 金(ゴールド)が鉱物資源と言えるかどうかは別として、ヘッジ資産としてインフレに強いのは確かだ。過去のどんなインフレ時においても、金価格は上昇している。
 農産物の価格高騰は、とくに、昨年、激しかった。南米ペルー沖の海面水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象」が発生し、天候不順や厳冬で不作となったからだ。たとえば、コーヒー豆は記録的な不作となり、スタバなどのコーヒー価格を上昇させた。気候変動は収まる気配がないので、この傾向はこの先もずっと続くだろう。


円建て資産の比率を大幅に減らすこと

 さて、最後に指摘したいのは、為替によるヘッジである。これは、じつに簡単な話で、この先「悪い円安」が続くのは確定だから、円資産をできるかぎり持たないということだ。
 世界中の中央銀行がインフレ退治のために量的緩和を手仕舞いし、金利を上げても、日銀だけは量的緩和策をやめられない。となると、金利差から円は売られ、「悪い円安」は進む。これに国内で進むスタグフレーションが拍車をかけ、円の価値はどんどん低下するだろう。
 現在、市場で言われているのは、ドル円が115円を大きく抜けた場合、すぐにでも120円になる可能性だ。
 日本は島国のせいか「ガラパゴス化」が進み、とくに金融においては完全にガラパゴス状態となっている。それを象徴しているのが、日本の家計金融資産における外貨建て資産比率で、なんとたったの2%にすぎない。
 これでは、インフレにはひとたまりもない。円による預貯金はもっともリスクがあるので、できるかぎりドルに替える。円建て資産はドル建て資産に替えてしまうべきだろう。
 金融緩和の手仕舞い(テーパリング)と金利引き上げによって、インフレが沈静化するという保証はない。ともかく、供給不足なので、景気回復によってこれが解消されないかぎり、物価は上がり続ける。その先には「金融バブルの崩壊」があるかもしれない。
 いま、わかっていることはただ一つ。スタグフレーションが進んでも、カザフスタン、トルコと同じように、国はなにもしてくれないということだ。
(了)

 

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


最新のニュース一覧はこちら←

 

 

 

タグ :  ,