連載725  英国はなぜコロナ規制をやめたのか? そうできない日本の集団主義の哀しい現実(完)

連載725  英国はなぜコロナ規制をやめたのか?
そうできない日本の集団主義の哀しい現実(完)

(この記事の初出は1月26日)

 

あとは国民に任せるとした英国政府

 欧米の政治を動かしているのは、科学的な知見に基づく「ロジックオブイベンツ」(logic of events:現実の論理)である。科学的な知見を重視せず、「空気」によって物事を決める日本とは正反対である。
 この「空気の論理」により、日本は先の戦争でなんら効果のない無駄な攻撃を繰り返して自滅した。
 英国政府、ボリス・ジョンソンの言っていることを聞いていると、こう言っているように受け取れる。「これまで政府としてやれることはやった。しかし、効果はたいしてなかった。あとは、もう国民のみなさんにまかせます」
 つまり、個人の責任において対処してほしいと言っているのだ。
 しかし、日本は違う。
 すべてにわたって、上がきちんと指示し、こと細かに決めようとする。だから、延々と話し合いを続け、全員が合意するまで物事を動かさない。ワクチンのブースター接種にしても、備蓄がある自治体の先行接種を許さない。いわゆる「集団主義」である。

なんの知見も権威性もない専門家集団

 このような経緯を見ると、日本政府がやっていることは情けないと言うほかない。英国よりはるかに陽性者数が少ないというのに「マンボウ」を決め、その拡大を決めるのに「専門家の承認が得られたため」と、もったいぶって言っている。
 専門家とは分科会のことで、この会長である尾身茂氏は、「オミクロン株はこれまでのデルタ株などとは異なるので、これまでの対策の踏襲ではなくオミクロン株の特徴に合わせたふさわしい戦術をとるべきだ」と言うものの、なんら具体的なことは示していない。
 これまでも、この人は科学的な知見、データを示して物事を言ったことがない。

日本の集団主義は本当に美徳なのか?

 集団主義では、個人が責任を取らなくてすむ。
 物事は、集団全員で決めるので、誰かがほかの誰かの責任を追及することができなくなる。よって、失敗してもなにが悪かったのか検証されない。だから、何度も同じことが繰り返されるのだ。
 このことは、別の見方をすれば、政府も政治家も国民を信用せず、子供扱いしているということだ。個々の判断には、けっしてまかせない。国民は、まるで小学校のクラスに閉じ込められているようなものだ。
 強制されなくとも日本人は守る。マスクは必ず着ける。密は避ける。こうしたことを、日本人の美徳とするメディアやコメンテータが多い。しかし、そうなるのは集団主義による「同調圧力」が強いからだ。
 全員で「マンボウ」を守り、同じ行動を取らなければいけない。それが日本という国だ。

WHOも方針転換して収束を言い出す

 英国が「反乱」を起こしたせいか、WHOのテドロス事務局長も、24日のWHO執行理事会で、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」について、「今年中に終えられる可能性がある」などと言い出した。
 この事務局長の言葉はまったく信用できないが、彼がこう言わざるをえなくなった背景には、英国をはじめとする科学的知見があることは確かだ。
 ただし、世界をいつまでもパンデミックにしておきたい彼は、こうも言った。「オミクロンが最後の変異株と思うのは危険だ」”It’s dangerous to assume that Omicron will be the last variant and that we are in the end game.”「コビット19のパンデミックは3年目に入り、われわれは重大な岐路に立っている」(”The COVID-19 pandemic is now entering its third year and we are at a critical juncture.”)
 はたして、英国が集団免疫に達したかどうかは、わかりようがない。しかし、感染拡大がピークアウトしたのは確かなようだ。こうなると、欧州諸国、アメリカも、英国に続くことになるだろう。
 しかし、日本はどうか? 専門家(?)が言うように、このあと2、3週間で本当にピークアウトするのだろうか?
 コロナも怖いが、日本の政治が空気による集団主義で進められていることのほうが、もっと怖いのではなかろうか。
(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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