連載726  台湾有事、米中戦争にリアリティはない アメリカも中国もそこまで愚かではない(上)

連載726  台湾有事、米中戦争にリアリティはない
アメリカも中国もそこまで愚かではない(上)

(この記事の初出は2月15日)

 北京冬季五輪が終わると、世界情勢は一気にきな臭くなりそうだ。欧州ではウクライナ、東アジアでは台湾の緊張がどんどん高まっている。そんななかで、日本は外交スタンスも定まらず、将来ビジョンもなく、国内言論は完全に現実離れしている。保守派は中国を敵視して「台湾を守る」と勇ましいが、本当にそんなことができると思っているのだろうか?
 それ以前に、中国は本当に台湾を武力併合するだろうか? その場合、アメリカは中国と本気で戦争する気があるだろうか? ということを、現実に即して考えてみるべきだろう。アメリカも中国も、直接対決するなど、そこまで愚かではない。「見せかけだけの危機」に騙されてはいけない。

 

強硬だが中身が伴わない保守、右派言論

 北京冬季五輪が、今週で終わる。
 問題続出の大会だったが、中国の競技施設の素晴らしさ、徹底した地球温暖化対策、先進的なハイテク技術を見せつけられると、改めて日本の後進性を意識せざるをえない。もう、彼我の差はどうしようもない。中国崩壊論を唱えているような場合ではないと、つくづく思わされた。
 それなのに、日本の保守言論、右派は、どうなっているのだろうか? このところ、ますますタカ派的傾向を強めている。中国はすぐにでも台湾に侵攻しかねない。日本も毅然として中国に対峙しなければならないと、強硬発言が目立つ。
 しかし、どう見ても、アメリカが中国と対決姿勢を強めているから、その尻馬に乗っているとしか思えない。
 先日、国会で決議された「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議案」は、そのいい例だろう。決議したのはいいが、法案作成過程で、「中国」の文言は消えてしまった。さらに、当初案の「人権侵害」が「人権状況」に書き換えられたうえ、「非難決議」から「非難」の2文字が削除された。これでは、なんのために決議したのかわからない。

「敵基地攻撃能力」というカラ論議

 対中強硬論で先頭に立っている政治家は、自民党政調会長の高市早苗氏だろう。昨年の自民党総裁選では、北朝鮮の弾道ミサイルへの対応で、盛んに「敵基地攻撃能力」を訴え、これを安全保障政策の柱の一つにすえた。
 その勢いに押されたのか、首相になった岸田文雄氏は、施政方針演説で、「いわゆる敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と述べた。
 説明するまでもないが、「敵基地攻撃能力」とは、敵ミサイルの攻撃を防ぐために、いち早くミサイルの発射拠点を叩くという考え方だ。北朝鮮の基地が標的だが、中国も含まれる。むしろ、対中国に対する防衛能力の向上を目指している。
 しかし、このような非現実的で馬鹿げた議論は、日本でしかやっていない。なぜなら、敵基地がどこにあるかもわからないし、ミサイルは移動システムがあればどこからでも発射できるからだ。安全保障を強化したいなら、こんなピンポイントのことより、総合的に軍事力を考えなければならない。

台湾有事は起こるか?よりいつ起こるか

 「人権決議」も「敵基地攻撃能力」も、まったく非現実的なのに、これを真剣に議論しているのだから、日本の国会は、本当に“浮世離れ”している。現実認識が足りない。
 しかし、保守派、右派はいまにも中国が台湾を武力併合し、尖閣諸島ばかりか沖縄まで取りに来ると言っている。「台湾有事は日本有事で、日米同盟の有事でもある」と、安倍元首相は言い、退任後はますます右派色を強めている。
 すでに、日本は台湾有事に備え、「日米2+2会合」や「クワッド首脳会談」などを行って、「自由で開かれたインド太平洋」を守るために、米軍、豪軍などと共同軍事訓練も行なっている。
 自衛隊内では、「台湾有事」に対処することを想定したシミュレーションが何度も行われている。
 こうなると、台湾有事は起こるか起こらないか?ではなくなり、いつ起こるかが問題になる。
 今回の北京五輪が始まる前、防衛省幹部が「五輪後は警戒を強めなければならない」と発言したことが問題になった。1936年のベルリン大会の3年後、ドイツがポーランド侵攻に踏み切り第2次世界大戦が始まった。2014年のソチ大会後には、ロシアがウクライナ・クリミアを併合した。こうした例にならっての発言だが、あるとしたら、現状では台湾より、ロシアのウクライナ侵攻が先だろう。

(つづく)

 

この続きは3月17日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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