連載727 台湾有事、米中戦争にリアリティはない
アメリカも中国もそこまで愚かではない(中1)
(この記事の初出は2月15日)
習近平3期続投とアメリカの中間選挙
日本で、「台湾有事」が近いと言う人々が必ず指摘することが二つある。
一つは、昨年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)が、中国による台湾侵攻について「今後6年以内に明らかになる」と発言したことだ。この発言は当時波紋を呼んだが、6年以内の根拠は、2027年が人民解放軍の創立から100周年を迎える節目の年というものだった。
もう一つは、習近平主席が掲げる「中国の夢」(アメリカを抜いて世界覇権国になること)で、習主席はたびたび「祖国統一」について発言していることだ。
直近では、昨年10月の辛亥革命110周年記念大会で、習主席は、こう述べている。「祖国を完全統一する歴史的任務は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」
香港の民主化運動が徹底して弾圧され、香港が北京の完全支配下に入ったことも、「台湾有事」が近いことの根拠になっている。香港の次は台湾だと言うのだ。
習近平主席は、今秋の第20回党大会で、異例の3期目続投が確実視されている。今秋といえば、アメリカでは中間選挙がある。そのため、習近平主席が党大会前に、台湾侵攻に踏み切るという見方も出ている。
アメリカとの戦争覚悟で台湾に侵攻?
このように見てくると、もはや中国の台湾侵攻は避けられず、そうなればアメリカは日本などの同盟国を巻き込んで台湾を防衛する。つまり、米中戦争は避けられないと思えてくる。
しかし、私は、米中戦争などありえない。「台湾有事」は起こらないと考えている。
台湾は、香港とは違う。中国に返還されたときから、香港の将来は決まっていた。一国二制度は一時的なもので、いずれ中国に併合される。つまり、それが25年早まっただけである。ただし、50年も経てば、中国は民主化されるだろうと欧米は見ていたが、それは甘かった。
それはともかく、台湾は香港のようにはいかない。香港方式では併合はできず、やるためには人民解放軍の血を大量に流さなければならない。
習近平主席は、中国の若者の大量の血と引き換えに、アメリカとの戦争を覚悟してまで、台湾を取りにいくだろうか。アメリカは世界でもっとも好戦的な国であり、世界覇権を握っている国である。失敗すれば、中国は冷戦敗戦時のソ連と同じように解体されるだろう。
「台湾防衛の義務がある」とバイデン大統領
アメリカの中国敵視政策は、事実上、トランプ前政権から始まった。2021年1月、アメリカ政府は、トランプ前政権がまとめたインド太平洋戦略に関する内部文書を公表した。
この文書では、中国は台湾に対して強硬手段を取るだろうと述べられ、そうした際に、「中国がアメリカやアメリカの同盟国、友好国に対して武力行使することを抑止する」ために、アメリカは(1)紛争時、中国に第1列島線内の制空・制海権を与えない(2)台湾を含めた第1列島線に位置する国や地域を防衛する(3)第1列島線外でのすべての領域で支配力を維持する――などを可能とする防衛戦略を考案、実行するとされていた。
第1列島線とは、九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ線である。
アメリカはこれまで、中国の台湾侵攻に関してのアメリカ自身の反撃を明確にしない「戦略的あいまい政策」を取ってきた。しかし、この文書公開以後、バイデン大統領は「アメリカには台湾防衛の義務がある」と繰り返し発言するようになった。
これは、アメリカ政府の中国に対する牽制である。すなわち、有事の際にアメリカは動かない、軍事展開しないと、中国に誤解させることを避けたと言えるだろう。
(つづく)
この続きは3月18日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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