連載730 台湾有事、米中戦争にリアリティはない
アメリカも中国もそこまで愚かではない(完)
(この記事の初出は2月15日)
日本の最大の問題はスタグフレーション
最後に、現在の日本にとって最大の問題は、どんどん進む悪いインフレ、スタグフレーションだと述べておきたい。原油、鉱物、農産物など、あらゆるモノが不足して値上がりしている。おまけに、異次元緩和という引き返せない金融政策をやったおかげで、円はこの先どんどん安くなる。
日本人の生存は、輸入にかかっている。食料、原材料が輸入できなければ、日本人はサバイバルできない。食料、原材料などの一次産品の最大のバイヤーは中国で、穀物も石油も中国に買い負ければ、私たちの暮らしは立ちいかなくなる。
こうした視点が、なぜか、保守派、右派には欠落している。なぜ、これほどの窮地に陥った日本で、中国脅威論を唱え、国防強化や憲法改正ばかりを訴えるのか、私には見当がつかない。かといって、もっと現実が見えず、格差是正ばかり訴えているリベラルや左派は、本当にタチが悪い。
さらに、右派も左派も見えていないのが、米中両国が対立しているように見えても、地球温暖化対策に関しては一致していることだ。
米中両国ともに地球温暖化対策に邁進中
習近平主席は、「共同富裕」を唱えながら、地球温暖化、気候変動対策には積極的である。北京冬季五輪の報道のなかで、中国が五輪でまかなう電力をすべて再生可能エネルギーにしたことが紹介された。万里の長城がある八達嶺の山間や平地に、ずらっと張り巡らされたソーラーパネルの光景には本当に驚かされた。
中国は、2030年までに二酸化炭素排出を半減させ、2060年にはカーボンニュートラルを達成すると明言している。現在、コロナ禍で一時的に化石燃料発電の削減は後退しているが、ポストコロナでは大胆にグリーン化を進めるとしている。また、アメリカが非難する保護貿易とは裏腹に、今年からRCEP協定発効に合わせて、954品目の最恵国税率を下回る輸入暫定税率を導入した。
アメリカはバイデン政権になって、地球温暖化政策を一気に進め出した。2021年11月には、「インフラ投資雇用法」の成立を受けて、エネルギー省がネットゼロエミッション目標を達成するため、先端クリーンエネルギーの導入促進を目的としたクリーンエネルギー実証室が新設されることになった。ここに215億ドルが投入される。
すでにバイデン政権は、温室効果ガス排出量を2030年までに半減させることを公約にしている。
私は地球温暖化には懐疑的である。そのため、その対策に莫大な投資をするのにも懐疑的だが、日本がこの対策で大きく遅れていることは憂慮している、なぜなら、これは将来を左右する経済対策でもあるかからだ。もし、米中両国が対立を続けながらも、この問題でがっちり手を組んでしまったら、日本はどうするのか?
現在の日本は、外交スタンスも定まらず、将来ビジョンもない「漂流国家」だ。政治家たちは、口先だけの政策を唱えて漫然と日々を過ごしている。
(了)
【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
→ 最新のニュース一覧はこちら←