連載729  台湾有事、米中戦争にリアリティはない アメリカも中国もそこまで愚かではない(下)

連載729  台湾有事、米中戦争にリアリティはない
アメリカも中国もそこまで愚かではない(下)

(この記事の初出は2月15日)

 

軍人は「ゲーム理論」通りに行動する

 現状を見る限り、アメリカと中国がやっていることは、「ゲーム理論」どおりの腹の探り合いと、破滅的な戦争を回避するための牽制である。
 軍人が常に希望しているのは「平和」であり、「戦争」ではない。ゲーム理論は「机上の空論」とされることがあるが、実際に歴史を検証してみると、軍人たちは理論どおりの行動をしている。
 いまの北京からアメリカを見ると、「BLM運動」「移民政策」などで国内は分断され、アメリカのハードソフト両面で覇権国家としてのパワーは弱まっているように見える。逆にワシントンから中国を見ると、トランプ前政権からの貿易戦争が効いて、中国経済成長はスローダウンし、拡張主義は行き詰りを見せているように見える。
 そのため、両国は激しいメッセージのやり取りをしている。アメリカは、ウイグルの人権問題をジェノサイトと非難し、北京冬季五輪を外交ボイコットした。中国は、アメリカと豪日など同盟諸国の本気度を試すために、台湾周辺に軍用機を飛ばし、空母艦隊を周回させている。
 こうした行為が行き過ぎて、なんらかのかたちで本当に戦争が起こってしまう可能性はありえる。しかし、昨年3月の両国外交トップ(ブリンケン国務長官と楊潔?共産党政治局員)のアラスカ会談での激しい応酬でわかるように、それは、一種のゲームだ。

米中戦争でもっとも損をするのは日本

 このようななかで、日本が考えなければいけないのは、本当に米中戦争が起こった場合、どれほどのダメージを被るかである。 
 どこをどう考えても、その場合は、日本がもっとも損をする。沖縄をはじめアメリカ軍の基地がある以上、本格戦争まで行けば、日本は全土が標的になってしまう。
 覇権国と覇権挑戦国の間では全面戦争はありえないが、局地戦はあると仮定すると、その戦場が日本にまで及ぶのは間違いない。
 さらに、現在、中国本土に日本企業は約1万3600社が進出していて、そこには日本人が約17万人働いている。それらを含め、中国には約78万人の在留邦人がいる。日本企業および日本人をどうやって救えるだろうか?
 なんといっても、中国は日本の最大の貿易相手で、日本の輸出のうち中国向け(香港を含む)は27.1%を占めている。輸入も25.7%を占めている。これらが完全にストップした場合、日本経済は回らなくなる。
 保守派や右派が、台湾有事を煽るのはいい。しかし、それはあくまで平和維持のためであり、防衛力の強化も軍事演習も覚悟を持ってやらなければならない。
 「人権決議」や「敵基地攻撃能力」など、口先だけでまったく役立たずのメッセージを発しても、中国に見透かされるだけだ。もっと、ゲーム理論にのっとった行動をすべきだろう。ともかく、日本にとって最良の選択は「現状維持」である。

(つづく)

 

この続きは3月22日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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