連載732  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(中1)

連載732  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(中1)

(この記事の初出は3月1日)

 

プーチンもアメリカ陰謀論を展開

 じつは、プーチン大統領自身も、今回の侵攻の理由に、陰謀論を持ち出している。それは、ウクライナが核兵器を配備することを企てているというものだ。
 侵攻前の2月21日の国民向けの演説で、彼は「ウクライナは独自の核兵器をつくるつもりであり、これは単なる自慢話ではない」と、熱弁した。さらに、アメリカはミサイル防衛を攻撃兵器に変換し、ウクライナ領内に核兵器を配備する計画を持っていると言った。
 アメリカは再三、ウクライナへの核兵器配備を否定してきたが、プーチン大統領は、それは嘘と認めなかった。そうして、ウクライナがNATOに加盟すれば、「ロシアを攻撃するための発射台となるのは時間の問題だ」と述べたのである。
 前アメリカ大統領のトランプもそうだったが、根拠のない言説を言いまくる点で、プーチン大統領もまた、同種類の人間と言えるだろう。

SNS「テレグラム」による情報拡散

 米ロ両国のトップによる情報戦は、SNSでも、一般市民を巻き込んで大規模に展開された。ウクライナで主流なSNSは「テレグラム」(Telegram)で、ここに連日、山のような情報、映像が投稿された。
 これまで、世界各地で紛争が起こるたびに、SNSは大活躍してきたが、今回はとくにすごい。
 日本のテレビ報道を見るより、テレグラムを見ていたほうが、なにが起こっているかよくわかる。
 たとえば、第2の都市ハリコフでロシア軍がガスパイプラインを爆破した映像は、テレグラムに投稿された。それを見れば、夜空に炎と煙が高く上る様子がはっきりとわかる。また、首都キエフの近郊で石油貯蔵施設が炎上する映像、破壊されたロシア軍戦車の映像なども投稿された。
 全面侵攻開始直前の2月24日未明に、ゼレンスキー大統領が「私は1人のウクライナ市民としてすべてのロシア市民に向けて演説したい」と訴えた映像は、ウクライナ政府のテレグラム公式チャンネルへ投稿された。
 また、26日、キエフの大統領官邸前で、「私はここにいる」「私たちは武器を放棄しない」と徹底抗戦を国民に訴えた“自撮り映像”は「ツイッター」(Twitter)に投稿された。

「偽旗作戦」動画とロシア兵士の投稿

 このように、SNSによる情報氾濫はすごいものがあるが、そうした情報のなかには、必ず「フェイクニュース」(偽情報)が混ざっている。その多くは、ロシア側がつくっているもので、たとえば侵攻前、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の指導者が、住民に向かって避難を勧告したというものがあった。ウクライナ軍によるジェノサイトがあるので、逃げろというのだ。動画には、大量の住民たちがロシア領内に避難する様子が映っていた。
 しかし、この動画は、完全なフェイクだった。公開の2日前に準備されたうえで撮られたと、ウクライナのSNSユーザーが暴露した。
 また、「ウクライナ工作員による下水処理施設の破壊工作」「ウクライナ軍のロシア国境への侵攻」などのフェイク動画も拡散された。いずれも、いわゆる「偽旗作戦」(false flag operation)である。
 こうしたロシア側の工作動画とは裏腹に、侵攻するロシア軍兵士が自ら投稿した「ティックトック」(TikTok)動画もあった。不思議なことに、彼らは部隊の動きを楽しみながら、いちいちティックトックに投稿していたのだ。その映像により、侵攻軍がベラルーシのどこの村を通過したか、どこの橋を渡ったかまでわかってしまった。
 なぜ、ロシア軍は兵士たちにSNSを使うことを禁止しなかったのか。考えられないことである。
 もちろん、ベラルーシの市民、ウクライナの市民がロシア侵攻軍を映した動画も続々投稿された。こうした動画と、衛星写真を組み合わせれば、軍隊の動きは丸裸だ。

(つづく)

 

この続きは3月25日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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