連載733  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(中2)

連載733  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(中2)

(この記事の初出は3月1日)

 

ファクトチェックが追いつかない

 SNSで拡散された写真や動画のなかには、誰がつくったのかわからないフェイク動画も数多くあった。ツイッターなどのSNS運営側は、ファクトチェックをしているが、まったく追いつかない。チェックして削除したときは、すでに拡散されてしまったというケースが多い。
 英BBCは、ファクトチェックの結果を記事化したが、それによると、ウクライナやそのほかの地域で起きた過去の紛争の映像や、軍事訓練の様子の画像など数多くあった。
 たとえば、ウクライナ上空を飛ぶロシア戦闘機を映したという複数の動画が拡散していたが、これは、なんとアメリカ製の「F-16ファイティング・ファルコン」だった。また、空襲警報が鳴るなか、編隊を組んだ戦闘機や爆撃機が都市部の上空を飛んでいる動画もあったが、これもフェイクだった
 ウクライナの南東部マリウポリで撮られたという、アパートの後ろで爆発が起きている映像は、元駐米ウクライナ大使までツイッターでシェアしていたが、これは1月29日に起きた発電所の落雷による火災で、元はティックトックに投稿されたものだった。

拡散中の陰謀論と「Qアノン」の正体

 このように、現代は、ネットを通してフェイクニュースが拡散する時代である。戦争は、それをさらに拡散させる。
 そこで、想起されるのが、トランプ前大統領時代に、拡散した「Qアノン」という陰謀論だ。なにしろ、アメリカ大統領が自ら陰謀論を拡散させたのだから、いま、アメリカがプーチン大統領をいくら非難しても説得力がない。
 Qアノンによると「トランプは単なるアメリカの大統領ではない。小児性愛者のリベラルエリートたちと闘い、世界を救うヒーローだ」となる。彼は、アメリカを支配する「ディープステート」(deep state:闇の国家)と戦っているというのだった。
 このような陰謀論にひっかかり、本当に行動を起こした人々がいたのだから、プーチンのような指導者が出たとしても不思議ではない。Qアノン信者とトランプ信者は、最終的に、連邦議会議事堂への乱入事件まで起こした。
 そして、いま主流の陰謀論と言えば、新型コロナウイルスは中国が開発した生物兵器、ワクチン接種は「NOW」(New World Order)による人口削減計画であるというものだろう。こうしたワクチン陰謀論が、ワクチン反対運動に大きな影響を与えているのは確かだ。
 ちなみに、Qアノンは、最近のNYT(ニューヨークタイムズ)記事によると、2人の人物がつくったという。ヨーロッパの言語学の専門家たちがコンピュータや機械学習を使って、突き止めたという。
 その人物とは、南アフリカのソフトウェア開発者ポール・ファーバー氏と、現在アリゾナ州で連邦議会選挙に立候補しているロン・ワトキンス氏だという。

「神」の代わりに生まれた陰謀論

 フェイクニュースや陰謀論は、なぜこうも流行るのだろうか? トランプ前大統領が仕組んだ「民主党の選挙陰謀論」がまかりとおれば、選挙結果は無意味になり、民主主義は崩壊する。
 なぜ、陰謀論はそれほどのまでの力を持つのだろうか?
「陰謀論」(conspiracy theory)という言葉を最初に唱えたとされる英国の哲学者カール・ポパーは、近代社会が始まったために必然的に陰謀論が生まれたという。
 近代以前の世界では、この世のすべての事象は「神の意志」だった。しかし、神が死んだ近代社会においては、物事の背後にはなにか強力な力、つまり、支配層の陰謀がなければならなくなった。
 それらが、「ユダヤの闇組織」(Jewish secret global network)、「フリーメーソン集団」(Freemansor)、「イルミナティ」(Illuminati)、「世界300人委員会」(Committee of the 300)などである。

(つづく)

 

この続きは3月28日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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