連載734 ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(下)
(この記事の初出は3月1日)
超情報化社会だから陰謀論が流行る
陰謀論は、ある意味で非常わかりやすく、合理的である。なにしろ、この世界の出来事には、その裏に必ず黒幕がいるのだ。このわかりやすい物語は、現代の情報化社会では欠かせない。
カール・ポパーの時代に比べて、この21世紀は、ネットの発達による超情報化社会になり、なにがどうなっているのか、その分野の専門家以外にはわからないことが多い。
情報が多すぎて、人々はなにが真実か、なにが事実か、わからなくなっている。
ところが、陰謀論では、この世界は世界支配層が描いたシナリオで動いているのである。また、アメコミの世界のように、正義のヒーローと悪のヒールがいる。善悪が対決する世界でもある。これは、じつにわかりやすい。
しかし、実際の世界はまったく違う。世界は誰かがつくったシナリオでは動いておらず、複雑な要素が絡み合って、常に予期しないことが起こる。とくに、現代はそうだ。
もちろん、人々は目的や希望を持ち、それに沿って行動するが、その結果が望んだ通りになるとは限らない。これが、実際の世界である。つまり、起こっていることにほとんど意味などない。
しかし、人々は、そうした現実をありのまま受け入れることができない。そうすべきなのに、そうしたくないのだ。
なぜか善意の人々が陰謀論を信じる
困ったことに、陰謀論を信じている人は、なぜかいい人間が多い。けっして単純思考でなく、知性も持ちわせている。陰謀論信者は、それを政治的あるいは営業的手段として用いている人間を除けば、信じる動機に悪意は感じられない。
陰謀論によって、この世の悪があぶり出されると、それをなんとかしなければと立ち上がる人も多い。連邦議会議事堂に乱入した人々のなかにも、そういう人がいたはずだ。日本でも、左翼系の人々のなかに、そういう人がいる。
たとえば、ワクチン反対論者、ワクチン陰謀論者は、ワクチンが有害だと本当に信じている。政府は、重篤な副作用を隠していると思い込んでいる。だから、正面からそれを否定すると怒り出す。善意を踏みにじられたと、反発をしてくる。
「MMT」(現代貨幣理論)信者も同じだ。日本政府はいくらでもおカネを刷ってもいいから、それによって経済を発展させ、弱者を救えと本気で言っている。政府がおカネ刷り続ければ、いずれその反動でハイパーインフレになり、経済は破綻すると言っても信じない。
(つづく)
この続きは3月29日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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