連載735 ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(完)
(この記事の初出は3月1日)
「自分の頭で考えろ」は無理な注文
陰謀論は、社会にとって有害である。個人の生活においても、同じく有害だ。陰謀論の多くは、特有の世界観、ある特定の思想上の目標を持っているので、社会も個人生活もその方向に導かれてしまう。
ナチスによるユダヤ人のホロコーストが起こったのも、反ユダヤ主義に基づいたユダヤ陰謀論だった。また、Qアノンに導かれて、ワシントンDCの店を襲った人々もいた。いまのウクライナ戦争も、指導者が間違った世界観を持っていたために起こったとも言える。
では、陰謀論から身を守る、偽情報を見抜くには、どうしたらいいのだろうか?
専門家はよく、「自分の頭で考えろ」と言う。どんなことでも疑い、疑ったら常に調べる。また、どんな情報でも、その発信源を確かめる。そうしたうえで、自分の頭で考えて判断すべきだと言うのだ。しかし、私に言わせれば、そんなことができる人間はほとんどいない。
なにより、自分の頭で考えるためには、専門知識が欠かせない。たとえば、「9.11テロ」は、アメリカの自作自演だという陰謀論があった。貿易センタービルは、本当は爆破されたと言われた。しかし、それを確かめるには、単に倒壊の映像を見て、その解説を読んでもできっこない。土木工学、建築学の専門知識や、軍事に関する知識も最低限必要である。
よって、私は、その道の専門家の意見をよく聞く、そんな時間がなければ、ファクトチェックサイトを利用することを推奨する。
いま、ネット上には情報の真偽を確かめるファクトチェックサイトが、200カ所ほどある。疑問を持ったら、常にこうしたサイトにアクセスするようにしたい。
最大の弊害は人々の生きる意欲を奪うこと
最後に、世界のいろいろな出来事を取材してきた経験から言わせていただくと、この世界は、本当に複雑怪奇で、明日なにが起こるかわからない。
陰謀論には、必ずその主体があるが、私はこれまで、ユダヤの闇組織、フリーメーソン集団、イルミナティ、世界300人委員会などの正式メンバーという人に会ったことはない。だから、これらの組織が本当にあるのかどうかもわからない。
ただし、フリーメーソンには何人も会ったが、みな陰謀などできようがない人々だった。また、多くの首相や政治家、経済人に会ったが、誰1人、世界全体を裏で動かす権力を持っていなかった。
さらに、インテリジェンスの世界で絶対の力を持つという組織に、CIA、MI6、モサド(Mossad)などの諜報機関があるが、それらの組織は鉄壁ではなく、日本の官庁並みにザルなところがあった。
このような点から、私は陰謀論をまったく信じない。
いずれにせよ、陰謀論とフェイクニュースの蔓延は知の衰退を招き、この世界を闇に導く。もし、この世界が闇の権力の陰謀で動いているなら、誰もがどんな努力をしようと、すべて無駄だ。陰謀論の最大の弊害は、人々の生きる意欲を奪うことである。
繰り返すが、この世界は誰かが描いたストリーどおりには動かない。もっと複雑で、それを貫く単純なメカニズムはない。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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