連載736  ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(上)

連載736  ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(上)

(この記事の初出は3月8日)

 

アメリカもNATOも後方支援だけで見殺し

 「戦争に“勝者”はいない」というのが、近代の国家対国家の戦争史の教訓である。今回のウクライナ戦争もまた、そうなりつつある。
 ロシアに侵略されたウクライナは多くのものを失ったが、侵略したロシアもまた多くのものを失った。さらに、プーチン大統領の暴走を許した NATO(北大西洋条約機構)諸国、アメリカも無力さを見せつけたことで、多くのものを失った。
 なによりも、核による脅しに対してはアメリカの世界覇権が機能しないということがはっきりしてしまった。
 もちろん、日本もエネルギーや食糧価格の高騰により、多大な被害を受けた。安全保障環境も大きく変化しようとしている。これは世界中同じだから、もはや、この戦争には“敗者”しかいないということになる。
 つまり、ウクライナ戦争がどのような結末になろうと、世界からはいままでの秩序が失われ、自由も基本的人権も民主主義も常に脅かされる状況が続いていくことになるだろう。それは、国連を見れば明らかだ。まったく、機能していない。
 国連もアメリカも、そしてNATOも、すべて口先だけ。ウクライナを支援はしているが、それは後方からだけで、事実上、見殺しである。かつて日本は、「NATOと同じ。口先だけでなにもしない」と揶揄されたことがあったが、このときのNATOは「No Action Talk Only」(ノーアクション、トークオンリー)の略とされた。今回、当のNATO自身がそうなってしまっている。
 しかし、この世界の状況を歓迎できる大国がある。それは、ロシアと同じく、独裁と強権によって成り立っている中国だ。

中国が苦慮しているというのは本当か?

 ウクライナ戦争が起こってから、中国の立ち位置は微妙だ。国連でのロシア非難決議には棄権し、自由主義陣営の経済制裁には加わっていない。しかし、ロシア側に立っているかと言えばそうではなく、いまもロシアの武力行使には反対して外交による解決を求め続けている。
 中国にとっては、ロシアも大事だがウクライナも大事なのである。ウクライナは、中国にとって「一帯一路」の欧州への玄関口となる国であり、ウクライナの貿易相手の筆頭国は中国である。
 「一帯一路」で中国と欧州を結ぶ鉄道「中欧班列」は、2020年7月に武漢からキエフに乗り入れ、2021年9月にはキエフから西安へ乗り入れたばかりである。
 つまり、中国は、ロシアとウクライナに間で板挟みなっていて苦慮している。そのため、プーチンを動かせるのは中国しかないと、ウクライナが仲介役を要請しても「生返事」しか返ってこない状況である。
 完全にロシアに寄れば、ロシアとともに国際社会から孤立する可能性があるし、ウクライナに寄ればロシアからの原油、天然ガスの供給は打ち切られる可能性もあるからだ。
 しかし、この中国の苦慮は本当だろうか?
 私はむしろ、中国はこの状況を歓迎していると考えている。それは、立ち位置を明確にせずに「あいまい戦略」を取れば取るほど中国の国益にかなうからであり、アメリカに対しても戦略上有利に立てるからだ。
(つづく)

 

この続きは3月31日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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