連載738 ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(中2)
(この記事の初出は3月8日)
中国の台湾侵攻に怯え始めた日本人
ウクライナ戦争は、今後なんらかのかたちで収束したとしても、その後の世界は、これまでの世界とは違っている。核保有国がなにをしても、世界は制止できない。力による現状変更が可能となる。そういう世界が訪れる。
世界覇権を持つアメリカが、自由と基本的人権、民主主義のために戦わないとわかった以上、そうならざるを得ない。
つまり、北朝鮮はますます核開発を進め、中国はいずれ、国是である「台湾併合」を実行する。それを阻止することはできない。そのため、中国脅威論に怯える日本では、にわかに安全保障論議が活発になってきた。
安倍元総理は、2月25日、ロシアのウクライナ侵攻に関して「台湾に対し中国がどのような対応を取っていくかを占う意味において、日本にとっても深刻な出来事である」と話し、後日のテレビ出演では、「核シェアリング」について言及した。
ウクライナ戦争勃発とともに、中国の軍用機9機が台湾の防空識別圏に侵入したことも、こうした発言に大きく影響した。「ウクライナは明日の日本、台湾が危ない」と言う認識が、国内で急速に広まったのである。
読売新聞は、3月4~6日に世論調査を行い、その結果を公表した。それによると、ロシアのウクライナ侵攻が日本の安全保障上の脅威になりうるという回答は、国民の8割に達していた。具体的には、中国による台湾への武力行使などが日本の安全保障上の脅威につながると「思う」は81%、「思わない」は11%だった。
アメリカと台湾は同盟関係にない
現状では、中国の台湾侵攻を阻止できるのは、アメリカだけである。では、アメリカは台湾を守るのだろうか?
その答は、そうなってみなければわからないとしか、いまのところ言えない。むしろ、ウクライナを見捨てた以上、台湾も同じく見捨てる可能性のほうが高い。
現在、アメリカは、「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府」として承認 (recognize)しており、「一つの中国」を「認知」 (acknowledge)している。この認識に従えば、中国が「台湾併合は国内問題」と言う以上、アメリカは手出しができないことになる。
ただし、台湾(中華民国)とアメリカはかつて「米華相互防衛条約」を結んでいて、同盟関係にあった。したがって、アメリカには台湾を防衛する義務があった。しかし現在は、この条約が後継法である「台湾関係法」に代わり、台湾はアメリカにとっての正式な同盟国ではなくなった。
「台湾関係法」はあくまでアメリカの国内法でしかない。
となると、アメリカは台湾を支援はするが、アメリカ人の血を流してまで守るかどうかは、そうなってみないとわからないとしか言いようがない。
では、日本はどうだろうか?
日本のスタンスもアメリカと同じである。現在、台湾と日本との間には友好関係はあっても、国際的な意味での正式な外交、同盟関係はない。日本は、中国が主張する「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」(一つの中国政策)を認め、その立場を「理解」(understand)し尊重」(respect)するとしているからだ。
アメリカが台湾を見捨てる可能性
歴史を振り返れば、アメリカが台湾を見捨てる可能性は十分にある。かつてアメリカが中華民国(国民党)を惜しみなく援助をしたのは、日本が共通の敵だったからである。しかし、日本が敗れて中国大陸から日本軍が去った後、アメリカはどうしただろうか?
アメリカは、腐敗した国民党政権をあっさりと見捨ててしまった。そのため、ソ連の援助のもとに毛沢東の中華人共和国が成立してしまった。
それでも国民党が生き延びられたのは、台湾に逃げ、冷戦が激化したからである。アメリカは、韓国、日本と同じく、台湾を死守せざるをえなくなった。対ソ冷戦のおかげで、台湾は生き延びたのである。
しかし、ベトナム戦争にアメリカがつまずくと、ニクソンとキッシンジャーは、中国を当て馬にしてソ連のベトナム支援をやめさせようと画策した。そのため、アメリカは台湾を切り捨て、中国を承認して外交関係を結んでしまった。結局、台湾はアメリカのご都合主義に振り回されてきたのである。
このご都合主義が、台湾有事でも繰り返される可能性は高い。バイデンのような大統領は、核の脅しに屈してしまうから、中国との全面戦争に発展しかねない台湾への軍事介入には踏み切れないだろう。
アメリカは、ウクライナと同じように、台湾有事には軍事的な介入を避け、同盟国・友好国とともに中国を経済制裁するだけだろう。
とはいえ、では、本当に中国が台湾に侵攻するかと言えば、これは現実的ではない。台湾とウクライナは、地政学的に見て大きく異なるからだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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