連載740  ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(完)

連載740  ウクライナ戦争の勝者は中国なのか? 「台湾有事」「核武装」—-どうする日本(完)

(この記事の初出は3月8日)

 

核武装が「簡単で安上がり」というのは嘘

 「日本も核武装をすべきだ」という主張は、以前から根強くある。今回のウクライナ戦争を見ても、核武装をしていない国は簡単に侵略され、国家としての独立を維持できなくなるからだ。
 しかし、日本の核武装は、核武装論者がしばしば言うような「核兵器の開発は日本の技術力を持ってすれば簡にできるし、安上がりだ」という話ではない。
 たしかに、日本の国力を持ってすれば、核武装は可能であるし、いったん決めれば、短期間での開発は可能だろう。しかし、問題は、どの程度までの核戦力を持つか、また、核戦力を持った場合どうなるかである。
 まず、日本が核武装するとなると、日米同盟のかたちを大きく変えなければならない。場合によっては、同盟解消まで視野に入れなければならず、そうなれば、日本独自でアメリカの「核の傘」を代替しなければならない。そのコストは膨大だ。
 さらに、日本は「NPT」(核拡散防止条約)を脱退し、核燃料供給に関する日米原子力協定も破棄せざるをえず、原子力発電用のウランの輸入先まで独自で確保しなければならない。
 核武装というのは、核爆弾を持つというだけの話ではない。核爆弾を安全保障上の抑止力とするには、「トライアド」(triad)と言われる“三位一体”の運用が必要だ。「大陸間弾道弾」(ICBM)、「潜水艦発射弾道ミサイル」(SLBM)、および「戦略爆撃機」の3つである。
 この3つを持たないかぎり、ロシア、中国の核戦力と対抗した「相互確証破壊」は成立しない。しかし、トライアドの保持と維持には莫大なコストがかかる。
 経済が衰退し続けているこの国が、はたして、そのコストを負担できるだろうか? できたとしても、そのときは、国民負担は増大し、国も国民生活も破綻しかねないだろう。

日米同盟の解体コストは年間23兆円

 『コストを試算!日米同盟解体ー国を守るのにいくらかかかるのか』(毎日新聞社、2012)という本がある。著者は、防衛大学校安全保障学研究会の武田康裕氏、武藤功氏の2人で、2人は、日本が日米同盟を解体したり核武装したりした場合のコストを緻密に試算している。
 2人の試算によると、日米同盟の解体コストは、年に22兆2661億円~23兆7661億円で、これは、現在の国家予算の2割以上に達する。こんな莫大なコストをかけるなら、日米同盟を活用したアメリカの「核の傘」のほうが、費用対効果に優れ、現実的であることは言うまでもない。
 さらに付け加えれば、日本がこれほど莫大なコストをかけて核武装に踏み切ることは、中国にとっては、「思う壺」である。なぜなら、中国にとっては、アメリカと直接対峙するより、日本のほうがはるかに与しやすいからだ。
 また、核開発で日本経済がますます衰退すれば、中国による経済支配も簡単になる。中国にとっては、笑いが止まらないだろう。
 核武装にかけるコストがあるなら、ハイテク技術を駆使した最新兵器、宇宙兵器などを開発したほうがはるかにマシだ。 
 日本は防衛力を強化しなければならない。核武装も視野に入れるべきだ。憲法9条は改正すべきだ。こうした保守、右派の主張は、正しいかもしれないが、中国を利するだけである。

現実を直視すれば大国同士の戦争はない

  最後に、私の見解として、米中が直接対決する戦争はありえないということを述べておきたい。両国は「冷戦」はしても「熱戦」はしないと断言できる。
 なぜなら、米中両国はお互いに大国であり、核保有国だからだ。歴史的に見て、大国同士は戦争などしない。戦争は、大国が小国に対して行うもので、その逆はほとんどなければ、まして大国同士の戦争はほぼありえない。また、核保有国同士の戦争だから、そんなことが起これば、両国とも破滅し、世界は終わってしまう。
 ただ、だからと言って、なにもしなくていいというわけではない。国家の防衛と平和維持に関しては、常に考え続け、そのための方策を実行しなければならない。
 戦争は、多くの場合、パワーバランスが崩れたときに起こる。したがって、仮想敵との軍事バランスは、独力ですることはもとより、同盟などによって常にイーブンに保つことが必要だ。
 もう一つ、中国脅威論はいいとして、一部にある「このままでいけば中国は世界から孤立し衰退していく」「中国はやがて崩壊する」という見方は現実的ではないので、捨てるべきだ。そんなことは、ほぼ起こらない。
 日本がすべきことは、これ以上、経済を衰退させないこと。人口減に歯止めをかけること。これに尽きる。
(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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