連載742 ウクライナ戦争を読み解く(1)
一般メディアはなぜか無視、ウクライナ戦争の黒幕、闇組織の実態(中)
(この記事の初出は3月15日)
世界から集まる「外国人義勇兵」の実態
現在、ウクライナは世界中から「外国人義勇兵」(foreign military volunteer)を募っている。すでに、多くの義勇兵がウクライナ入りし、最前線で戦っている。その訓練地が、ウクライナ西部のポーランドとの国境からわずか25キロの「ヤボリウ国際平和維持・安全保障センター」という軍事施設だったため、3月13日、ロシア軍の空爆が行われて35人が死亡(ウクライナ政府発表)した。
ここでは、以前からウクライナ軍とNATO軍の合同訓練も行われていた。
ウクライナ軍には、以前から多くの外国人義勇兵が支援に入っている。ロシアの侵攻直後、在日ウクライナ大使館が日本でも義勇兵を募集したところ、約70人が志願したことが報道された。
しかし、義勇兵といっても、ただ単に「ウクライナを助けたい」という理由から志願する人間ばかりではない。ウクライナにはすでに2万人を超える外国人の義勇兵が入っていると言われているが、そのなかには、世界各地の内乱、紛争を戦ってきたプロの戦闘員、極右組織の構成員、白人至上主義者の過激派、中東からのテロリストなどもいる。義勇兵といっても、組織や国に雇われていれば、それは「傭兵」(mercenary)であり、彼らの目的はカネ稼ぎである。
つまり、彼らは善意からウクライナにやって来たのではない。
ワシントンDCにあるアメリカン大学の「Polarization and Extremism Research and Innovation Lab」で過激主義者の研究をしているシンシア・ミラー・イドリス教授は、先ごろ「MSNBC」テレビに寄せた論説で、この点を指摘して警告を発している。
「ネオナチの排除」は単なるでっち上げではない
イドリス教授によると、ウクライナは近年、極右の過激派、白人至上主義者、「ネオナチ」(neo-Nazism:ナチス復興運動)運動家などの国際的なハブになっているという。彼らは、ウクライナの民兵組織に入隊して実戦経験を積むことを主な目的としている。
現在のウクライナ軍のなかには、「アゾフ大隊」(Azov Battalion)と呼ばれる民兵組織を含む、超国家主義者のグループがある。
アゾフ大隊は、2014年に親ロシア派の分離主義者に対抗するために設立された部隊で、今回、ロシア軍に包囲・制圧されたマリウポリに本部を置いていた。彼らは設立後、親ロシア派からマリウポリを奪還し、公式に「ウクライナ国家親衛隊」(National Guard of Ukraine)に組み込まれた。
プーチンは侵攻前に、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの一部の独立を承認したが、侵攻直前までアゾフ大隊は親ロ派の分離主義者と戦闘を繰り返していたのである。
つまり、プーチンが侵攻の口実とした「ネオナチの排除」は、単なるでっち上げとは言えず、一面の真実を含んでいた。
いるシンシア・ミラー・イドリス教授は、先ごろ「MSNBC」テレビに寄せた論説で、この点を指摘して警告を発している。
欧州各国を経由して極右やネオナチが参戦
アゾフ大隊に関しては、「Wikipedia」でもかなり詳しく解説されているので、それを参照にしてほしい。ただ、このようなネオナチを国家の構成員に組み込んだ国は、ウクライナ以外に存在しない。アゾフ大隊の設立者アンドリー・ビレツキーは、2014年に議員に選出され、2016年には極右政党の「National Corps Party」を設立している。
アメリカは、アゾフ大隊などの勢力に対して、ロシア分離派との戦いを助けるため、2014年から資金支援と訓練を提供してきたが、議会は、アゾフ大隊を問題視し、アメリカの武器が彼らに渡ることに懸念を表明してきた。しかし、ロシアが侵攻してしまったいまとなっては、そんなことなど言っていられない。
イドリス教授が警告するのは、このようなネオナチを含めた外国人義勇兵や傭兵のなかの過激派が、ウクライナ戦争で力をつけることである。彼らが軍事訓練を受け、実践経験を経てさらに先鋭化して出身国に帰った場合、世界中で「極右運動、白人至上主義運動が盛んになりかねない」というのだ。
現在、欧州各国を経由して、極右やネオナチがウクライナに入国している。そのため、英国などは義勇兵に関してのスクリーニングを強化しているという。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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