連載745 ウクライナ戦争を読み解く(2)
アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (上)
(この記事の初出は3月16日)
前回に続いて、ウクライナ戦争の裏側について、判明している事実を伝えていきたい。
日本のメディアは、欧米が善、ロシアが悪の「善悪二元論」に基づいて報道しているが、今日までのことを振り返ると、事態はそんな単純なものではない。むしろ、アメリカのロシア敵視政策が、今回のロシアの侵攻を招いたと言えるだろう。もともとウクライナの政権が腐敗していたこともあるが、現在の事態の発端は、国務省ナンバー3のビクトリア・ヌーランド次官がつくった。
ジョージ・ケナンやヘンリー・キッシンジャーの警告は無視されたのだ。
国連で「生物兵器」をめぐり米ロが応酬
3月11日、ロシアの要請によって開かれた国連の緊急安全保障理事会は、とんだ茶番劇だった。日本のメディアは、ロシアが理事会招集のための要請とした問題「ウクライナでアメリカが生物兵器を開発している」を一笑に付したが、その実態がまるでないわけではない。
アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「ロシアがこの会合を要請したことが(自作自演の)偽旗作戦の可能性がある」とロシアを非難し、逆に、ロシアがウクライナで化学兵器や生物兵器を使用する可能性があると警告した。
しかし、アメリカがウクライナに資金援助した生物学研究施設を持っていること自体は、事実なのである。
この国連安保理の3日前、アメリカの上院では、国務省ナンバー3のビクトリア・ヌーランド次官(政治担当)が、証言に立っていた。
この証言は、ロシア外務省がツイッターに投稿した内容を受けてのものだった。その内容とは、「ロシア軍は、アメリカの国防総省が資金援助したウクライナの軍事的な生物兵器プログラムの証拠を隠滅した形跡を発見した」というものだった。
ロシア軍の手に渡る危険性を指摘
ヌーランド次官は、マルコ・ルビオ上院議員のずばりの質問「ウクライナは化学・生物兵器を持っているのか?」に対して、きっぱりと否定しなかった。
そればかりか、「ウクライナは生物学の研究所(research facilities)を持っています」と答えたのである。
そうして、「いまや、ロシア軍が研究所を抑えるかもしれないので、ウクライナ側と協力し、実験・研究材料がロシア軍の手に渡らぬよう努めたいと思います」と続けたのだ。
さらに、ルビオ上院議員が、「もしウクライナ国内で生物兵器や化学兵器による攻撃が起きた場合、ロシアが関与していると考えられるかどうか」と突っ込むと、「私の中ではまったく疑問の余地がない」と述べたうえで、「自らが計画していることについて他人を非難するのはロシアの古典的な手口だ」と指摘したのである。
結果的に生物兵器の研究を認めたことに
つまり、安保理でのロシアは、こうしたアメリカ上院でのやり取りを逆手にとって、安保理の緊急理事会を要請したことになる。
したがって、これは「偽旗作戦」と言えなくもない。しかし、まだなにも実行はされてはいない。また、ヌーランド証言で明らかになったように、アメリカがウクライナに生物学の研究施設を持っていることは事実なのである。
ヌーランド証言で驚くのは、なぜ、彼女が、即座にロシア軍が研究所を抑えることの危険性を指摘したかだ。単なる研究所なら、危険なわけがない。つまり、その研究は生物・細菌兵器につながるものだからとしか考えられない。
新型コロナウイルスのパンデミックで明らかになったことだが、アメリカはウクライナばかりか、世界各国に同じような施設を持っている。そこでは、生物・細菌兵器の研究開発が行われている。
(つづく)
この続きは4月13日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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