連載747  ウクライナ戦争を読み解く(2) アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (下)

連載747  ウクライナ戦争を読み解く(2)
アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (下)

(この記事の初出は3月16日)

 

ロシア脅威論を煽り、プーチンに復讐

 ビクトリア・ヌーランドは、常に強気で、ロシア脅威論を煽ってきた。ロシアは軍事力を強化させているので、それに対抗するためには、「万全な防衛予算を維持し、アメリカと同盟諸国の核兵器システムの近代化を継続しなければならない」「ロシアの新型ミサイルからから守るために、欧州におけるミサイル防衛を整備・強化する必要がある」と、提唱してきた。
 しかし、ロシアのGDPは1兆7107億ドルで、アメリカの22兆6752億ドルに比べたら、約13分の1、軍事費も約10分の1に過ぎない(IMFの2021年統計)。はたして、これが脅威であろうか。
 彼女は、トランプ政権になって国務省を去ったが、バイデン政権の誕生で、2021年に国務省次官として返り咲いた。それとともに、ロシアに対する脅威が再び煽られるようになった。その挑発に、プーチンは乗ってしまったとしか思えない。
 昨年末から、アメリカ国務省はロシアが軍事行動を取る恐れがあると、世界中に警告するようになった。強化されるロシア軍の状況を逐一情報発信するようになった。それは、まるで、ヌーランド次官のプーチンに対する復讐のように思える。

繰り返されたアメリカとロシアの駆け引き

 今回の直接的な事の起こりは、ゼレンスキー大統領が「ミンスク合意」を反故にしようとしたことだ。ミンスク合意とは、2014年のロシアによるクリミア併合の際、東部地域の親ロ派の自治を認めることで停戦に合意したというもの。仲介したのは、ドイツとフランスだった。
 しかし、ネオコンは東部地域とクリミアを取り戻さなければ気がすまなかったようだ。
 世界中のほとんどの人間が、ミンスク合意など知らない。また、ウクライナがアメリカとロシアの駆け引きによって引き裂かれた「破綻国家」であり、親欧米派政権と親ロシア派政権が交代を繰り返してきたことを知らない。この交代が、外部によって仕組まれたことであることなど、もっと知らない。
 ここ20年で見れば、まず、2004~05年のオレンジ革命がある。このときは、親欧米派のユシチェンコが政権を握った。次は、2010年の大統領選で、このときは親ロ派のヤヌコーヴィチが当選し、EUとの政治・貿易協定を見送ったため、大規模な反政府運動が起こった。こうして、2014年にアメリカの工作による「マイダン革命」が起き、その反動でロシアによるクリミア併合が起こり、ポロシェンコ政権が誕生してミンスク合意が結ばれた。
 しかし、ミンスク合意は守られず、東部における内戦はずっと続いてきた。
 現在のゼレンスキー大統領は、2019年に就任したが、結局、なにもできなかった。
 ロシアのウクライナ侵攻は、明らかな国際法破りであり、現在の戦争は人道に対する犯罪である。しかし、それを糾弾し、止めさせようとしないアメリカとはなんなのだろうか? それでも、世界覇権国なのだろうか? また、アメリカのイラク侵攻と、ロシアのウクライナ侵攻とどこが違うのだろうか?

(つづく)

 

この続きは4月15日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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