連載748  ウクライナ戦争を読み解く(2) アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (完)

連載748  ウクライナ戦争を読み解く(2)
アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (完)

(この記事の初出は3月16日)

 

政治が腐敗すると米ロはそれにつけ込む

 ウクライナの悲劇の原因を詳しく知りたければ、2016年に、オリバー・ストーン監督が制作したドキュメンタリー映画「ウクライナ・オン・ファイヤー」を観ることをお勧めする。2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン反乱、ヤヌコヴィッチ政権の転覆劇の真相を暴いている。
 ウクライナで起こってきたことは、欧米メディアや日本の主流メディアが伝えるような「民主主義の悲劇」ではない。
 この国では、腐敗した政権とロシアのオリガリヒのような財閥が結びつき、そうしたなかで、ネオナチや極右、親ロ勢力が暗躍し続けてきた。
 たとえば、ユダヤ人大富豪のイゴール・コロモイスキーは、ネオナチ軍団と評される「アゾフ大隊」に資金を流していた。また、ウクライナ発のロシェン菓子グループの経営者で「チョコレート・キング」と呼ばれる大富豪のペトロ・ポロシェンコは、ドネツクやルガンスクで独立運動を画策するテロリスト・グループに資金援助をしていた。
政治腐敗があると、それにつけ込むのが、アメリカやロシアの諜報機関で、その情報にのって、ワシントンやモスクワは、その国をコントロールしようとする。大国となった中国も、まったく同じだ。ウクライナはまさに、そういう大国につけ込まれやすい国だった。

ケナン、キッシンジャーは正しかった

 いま思うと、ジョージ・ケナンとヘンリー・キッシンジャーの警告は正しかった。この2人は、ロシア敵視政策は間違いだと、はっきり言ったのである。
 ケナンは冷戦時のソ連封じ込め政策の父とされる外交官、政治学者、歴史家である。彼は、1998年、NATOの東方拡大についてこう警告した。
「NATOの東方拡大は冷戦後の時代全体におけるアメリカの政策のもっとも致命的な誤りである」
「NATOの東方拡大は、米ロ関係を深く傷つけ、ロシアがパートナーになることはなく、敵であり続けるだろう」
 キッシンジャー元国務長官は、中国の抱き込みを成功させ、戦後のアメリカ外交でもっとも重要な役割を果たした人物だが、ケナンと同じ考えを持っていた。
 キッシンジャーは「ウクライナはNATOに加盟すべきではない」「ウクライナを東西対立の一部として扱うことは、ロシアと西側、とくにロシアと欧州を協力的な国際システムに引き込むための見通しを何十年も頓挫させるだろう」と主張していた。

ウクライナはフィンランドに学ぶべきだった

 冷戦時代、ソ連は中東欧で完全な傀儡政権を築き、それを支配することでアメリカと対抗した。しかし、フィンランドへの政策は異なっていた。外交に対しての制限は厳しかったが、傀儡政権をつくらず、内政に対する干渉は最小限にとどめた。
 そのため、フィンランドは民主主義国家であり続け、資本主義国家として発展し続けた。フィンランドは徴兵制を敷き、EUには加盟したが、軍事同盟であるNATOには参加しなかった。
 しかし、独立後のウクライナは、西に東に揺れ続けた。そして、最終的にEU加盟、NATO加盟の道を選んで悲劇を招いた。フィンランドと同じく、ロシアと国境を接している以上、毅然として独立、中立を守るべきだった。それが、戦争を仕掛けられてからわかるとは、本当に悲劇だ。
 そのフィンランドも、ウクライナ戦争が起こってから、NATO加盟を真剣に模索するようになった。世界一若い女性首相のサンナ・マリンは、いま、もっとも重要な選択に迫られている。
(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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