連載749 ウクライナ戦争を読み解く(3)
ロシアは孤立し崩壊するのか? 経済制裁から見えてくる「もう一つの世界」 (上)
(この記事の初出は3月17日)
ロシアはいずれ崩壊するというメディア
バイデン大統領は、プーチン大統領をはっきりと「独裁者」(dictator)と呼び、ロシアに対する経済制裁を強化していくと宣言した。また、ロシアや中国、北朝鮮などを「専制主義陣営」と呼び、アメリカやEU諸国、日本などを「自由主義陣営」として、対決していく姿勢を鮮明にした。
欧米の主流メディアは、ロシアに対する経済制裁が始まってから、「ロシアはウクライナを制圧できたとしても、長期的には敗者になる」と、論説している。経済制裁は、ロシアが世界経済から切り離されることを意味し、世界は1990年以前の冷戦時代のように、西側と東側に分断されることになる。
すでに、ロシア国内では大混乱が始まっている。ルーブルは暴落し、銀行のATMには連日長蛇の列ができている。物価は上昇し、生活必需品の品不足も目立ち始めた。
このまま行けば、ロシアはもはや戦争どころではなくなり、そんななかでプーチン政権を打倒しようという動きが強まると考えられている。欧米の主流メディア同様、日本の主流メディアも、コメンテーターたちもみなも同じ見解を表明している。
しかし、そんなに簡単に皇帝プーチンのロシア帝国は崩壊するだろうか?
経済制裁参加国と非参加国を比較する
ここで、経済制裁がどうなっているのか、経済制裁参加国と、不参加国を分けて、比較してみたい。
次が、対ロシア経済制裁に加わっている主な国のリストと、GDP額、( )はGDP順位である(IMF2021年統計、単位は100万ドル)。
・アメリカ22,675,271(1位)
・日本 5,378,136(3位)
・イギリス 3,124,650(5位)
・韓国 1,806,707(10位)
・オーストラリア1,617,543(12位)
・台湾 759,104(21位)
・ノルウェー 444,519(31位)
・ニュージーランド 243,332(49位)
(EU主要国)
・フランス 2,938,271(7位)
・イタリア 2,106,287(8位)
・スペイン 1,461,552(14位)
・オランダ 1,012.598(17位)
・スイス 824,734(18位)
・スウェーデン625,948(24位)
・オーストリア481,796(28位)
(ドイツはEUの盟主だが、依然として原油輸入などを制限していないので、このリストには加えず、むしろ非参加国に入れた)
これに対して、次が、ロシアへの経済制裁の非参加国のリストである。
・中国 16,642,318(2位)
・ドイツ 4,319,286(4位)
・インド 3,049,704 (6位)
・ブラジル 1,491,772(13位)
・メキシコ 1,192,480(15位)
・トルコ 794,530(20位)
・イラン 682,859(22位)
・サウジアラビア 804,921(19位)
・アルゼンチン 418,150(32位)
・アラブ首長国連邦 401,513(34位)
・エジプト 394,284(35位)
・ベトナム 354,868(40位)
・ハンガリー(報道)176,543(54位)
・セルビア60,4358(81位)
・ベネズエラ 42,530(92位)
(*なお、ロシアのGDPは、1,710,734で世界11位である)
このリストを見て、おやっと思う人が多いと思う。報道の印象からは考えられないほど、経済制裁への非参加国は多く、そのなかには、中国やインド、ブラジルなどの大国が含まれているからだ。これにドイツを加えれば、非参加国のGDPのトータルは参加国に匹敵する。
つまり、これらの国々と貿易、経済関係が続けられれば、ロシアは崩壊しないのではないかと思われる。問題は、基軸通貨ドルによる国際決済システム「SWIFT」からの排除だ。ただ、これがどれくらい効くのか、いまのところはよくわからない。
(つづく)
この続きは4月19日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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