連載751  ウクライナ戦争を読み解く(3) ロシアは孤立し崩壊するのか? 経済制裁から見えてくる「もう一つの世界」 (完)

連載751  ウクライナ戦争を読み解く(3)
ロシアは孤立し崩壊するのか? 経済制裁から見えてくる「もう一つの世界」 (完)

(この記事の初出は3月17日)

 

「SWIFT排除」は影響を与えるのか?

 貿易には決済がいる。この決済は、ほとんどドルで行われている。そのため、アメリカはSWIFTから、ロシアの金融機関を排除する制裁も実施した。
 しかし、中ロ間の決済では、SWIFTは関係ない。
 SWIFTからの排除は、対イラン制裁で発動されたため、ロシアはそれを見越して、2014年にロシア中央銀行の金融メッセージングシステム(SPFS)を発動させている。同じく中国も2015年に人民元による国際銀行間決済システム(CIPS)を稼働させた。
 したがって、この2つを連動させれば、少なくとも中ロ間の決済は問題ない。問題は、ロシアにとって中国以外の国との決済だ。
 このような決済が、人民元を通した迂回が可能なら問題はないが、金融間関係者は「ほぼ不可能だろう」と見ている。
 なによりロシアは今後、ドルなどの外貨準備が不足する。すでに、海外に持つ外貨は凍結されているので、サバイバルは、自給自足経済をどこまで進められるかにかかっているが、それは中国が非制裁国である限り、十分に可能だろう。


アメリカは中国のロシア離れに期待

 このように見てくれば、ロシアへの経済制裁を本当に効かすためには、中国を制裁参加国側に引っ張ってくる以外にない。そのため、アメリカでは、一時的にでも中国との競争関係、敵対関係を見直そうとする動きがある。あるいは、中国にも圧力をかけようという動きがある。
 しかし、現在の中国が、そんな誘い乗ってくることは、考えられない。また、圧力が効く可能性もほぼない。
 3月7日、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は記者会見で「中ロ関係は第三者によって干渉・挑発されるものではない。中ロ関係の発展ははっきりとした歴史的ロジックと強い内生的原動力を有し、両国人民の友情は盤石で、双方の協力の見通しは明るい」と述べている。
 先ごろ、CNNはアメリカ政府の高官の話として、ロシアが中国にドローン(無人機)を含むウクライナでの軍事支援を要請したと報道した。これを受けて、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、3月14日、イタリアのローマで、中国の楊潔篪(ヤン・チエチー)共産党政治局員と会談して、「アメリカは経済制裁の被害を埋め合わせようとロシアを支援する国を支持せず、許さない」と伝えた。
 しかし、どのように許さないのかは、不明だ。
 バイデン大統領は、ロシアの孤立化を支援するように中国側に圧力を掛ける取り組みについて聞かれたが、「まだ話をする準備をしていない」と語った。

ある限り、十分に可能だろう。


このままでは漂流するだけの日本

 このように見てくると、現在の報道とは裏腹に、ロシア帝国は意外と長く持つのではないだろうか。はたして、経済崩壊とともに政権も崩壊して、プーチンが排除され、裁かれる日が来るのだろうか。
 このまま行けば、世界は、欧米ブロックと中ロブロックに分断される「新冷戦」が進んでいく。この世界構造は、日本にとって、非常にまずい状況である。
 かつての冷戦時、日本は目覚ましい経済発展を遂げたが、今回の新冷戦では、欧米サイドと中ロサイドの板挟みあって、身動きが取れなくなる可能性が高い。いや、すでにそうなっている。
 現在、日本は経済制裁に加わったことで、ロシアから「非友好国」指定され、それに対して官房長官が「遺憾である」と言って、お茶を濁している。
 しかし、いつまでも曖昧なままでは、経済は漂流するばかりだ。ここは思い切り、ロシア、中国から離れ、自由主義陣営内でのサプライチェーンを早急に確立することが必要だろう。漫然とはではなく、覚悟を持ってアメリカに追従する以外、日本の未来はありえない。


(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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