連載752 円安はどこまで進む?
現金を持っているだけで貧乏になる時代に! (上)
(この記事の初出は3月22日)
とうとう円安に歯止めがなくなりつつある。ついこの前まで円安は歓迎され、円は「安全資産」と言われてきたが、それは真っ赤な嘘だった。このまま行けば、じきに1ドル=150円が見えてくるだろう。
そもそも通貨の価値は、国力に比例する。もはや、衰退するばかりの日本経済を象徴しているのが、円安である。スタグフレーションも進行しているいま、貯金などしてはいけない。円を現金でを持っているだけで貧乏になる。
つい先日まで、円安歓迎、円は安全資産
それにしても、政府も経済の専門家も、そして経済メディアまでも、つい先日まで。「円安は歓迎」「円は安全資産」と言ってきた。その理由は、円安になると輸出先での価格競争力が上がるため、輸出が増えて輸出企業の儲けが増える。その結果、日本経済は活性化するという理屈だ。
しかし、これは真っ赤なウソである。いまの日本経済は、製造業の海外移転が進み、日本からの輸出が利益を生まない体質になっている。むしろ、エネルギーと食糧などの輸入価格が上がるので、円安は逆風なのである。
ここで円相場を振り返ると、去年(2021年)の初めは、1ドル=103円前後だった。2020年2月にコロナ禍が始まって約1年間は、ほとんどこの水準だった。
ところが、アメリカがコロナ禍から脱して経済活動が再開されるという期待が高まるなか、日本のワクチン接種の遅れが影響してドル買い円売りが加速し、2021年3月には1ドル=110円台まで円安が進んだ。
そして、去年の10月、FRBがテーパリングに入ることを表明すると、日米の金利差が広がるという懸念から、さらに円安が進んだ。その結果、2021年11月に、円は4年8か月ぶりに1ドル=115円台をつけたのである。
いまさら世界情勢のせいにしてお茶を濁す
前記したように、円安は日本経済の衰退を加速させる。経済力を大きく低下させる。ようやく、このことがわかってきたのか、評論家もメデイアも最近は論調を変え、円安になった原因をあれこれ言い出した。
いわく、「アメリカの金利が上がり、日米の金利差が開くため」「経常収支が悪化し、赤字が増えたため」「ウクライナ戦争が起こり有事のドル買いが進んだから」などと言っている。
このどれも、間違っていないが、根本的な原因を指摘する評論家やメディアはない。みな、言い訳に終始している。
では、根本原因とはなんだろうか? それは、日本の経済力が著しく落ち込んだからである。そのことを象徴するのが、経常収支の赤字で、今年の2月の経常収支は1年6カ月ぶりの大幅な赤字を記録した。
為替市場で、円が安全資産と言われたのは、日本が経常終始の黒字国で、世界一とされる対外資産の保有国だったからである。しかし、経常収支の赤字が続けば、日本は対外資産を切り崩さざるを得なくなる。
為替レートが変動する2つの理由
史上最高の円高といえば、2011年10月31日、オーストラリア市場で1ドル=75.32円をつけたことである。この年は東日本大震災の年だったが、円高は進行し続けて、ついにここまでの最高値をつけた。それ以前の円高と言えば、1995年4月19日につけた79.75円が最高である。
いま思えば、なつかしいとしか言いようがないが、もはやこんなことは2度と起こらない。
なぜそんなことが言えるのか?
それは、日本経済が日々衰退し、いまや1人当たりのGDPでは台湾や韓国にも劣るからだ。
為替レートは、一般的に金利差で動くとされる。A国とB国に金利の差があると、たとえばA国の金利がB国より高ければB国の通貨は下落する。アメリカの金利のほうが日本より高ければ、円安になる。これが逆なら、円高になる。ただし、これは両国の経済が正常に保たれていることを前提とする。
もう一つ、通貨供給量の増減でも、為替レートは動く。なぜなら、金融を緩和すると金利は下がり、引き締めると金利は上がるからだ。A国が金融を緩和して通貨供給量を増やし、それがA国とB国の通貨供給量のこれまでのバランスを上回れば、A国の通貨はB国の通貨に対して下落する。
実際、アメリカがリーマンショック以後量的緩和によりドルの供給量を増やしたため、円高は進んだ。円は安全資産とされて、前記したように史上最高値をつけた。それが反転して円安になったのは、日本もアベノミクスで量的緩和を始めたからだ。
しかしもう一つ、為替レートを動かす大きなメカニズムが存在する。
(つづく)
この続きは4月22日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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