連載754  円安はどこまで進む? 現金を持っているだけで貧乏になる時代に! (完)

連載754  円安はどこまで進む?
現金を持っているだけで貧乏になる時代に! (完)

(この記事の初出は3月22日)

 

経済のファンダメンタルズで為替は決まる

 為替レートが変動する最大のメカニズムは、A国とB国の国力(経済力)の差である。国力が充実して経済成長を続けている国の通貨は、国力を落として経済成長が低迷している国の通貨に対して、長期的には上昇する。金利や通貨供給量の差は、一時的な為替レートの変動をもたらす。しかし、国力の差が開いていくと、為替レートの変動は金利や通貨供給量のメカニズムだけでは説明できなくなる。長期的に経済が衰退していく国の通貨は、経済が強い国の通貨に対して下落し続けることになる。
 したがって、現在の円安(ドル高)は、日米両国の経済力の差である。誰もが知るように、日本経済が世界最強だったのは、1980年代である。日本は「世界の工場」と言われ、「メイドインジャパン」(日本製品)は世界中に溢れた。
 円は強くなり、ドルに対して上昇を続けていた。それを象徴するのが、1985年にG5国間(日・米・英・独・仏)で交わされた「プラザ合意」である。
 このとき、アメリカは双子の赤字(貿易赤字、財政赤字)に悲鳴を上げ、それを調整するために、主に日本とドイツに通貨の切り上げを求めた。
 その結果、円高は一気に進み、プラザ合意前に1ドル200円台だった円は、翌1986年には100円台になった。そして、この状態が今日まで続いてきた。
 変動相場制は、通貨の為替レートの変動により、各国の対外不均衡を是正する機能を持っている。「為替レートは各国の経済のファンダメンタルズを反映すべきである」というのが、変動相場制での大原則である。
 この大原則が機能すれば、もはや、円はドルに対して弱くなっていくだけである。

 

「弁当男子」が激増する時代になる

 いまのところまだ、円安が進めば株価は上がるという比例関係が続いている。株価は低迷しだしたが、それでも円安が1%進めば株価が2%上がるというようなことが起こっている。そのため、投資家にはそれほど、危機感はない。
 しかし、一般国民の暮らしは、円安により、大幅に悪化する。
 いまの日本は、明らかにスタグフレーションである。政府は、ガソリンの販売価格の上昇を抑える原資として1リットルあたり25円を上限とした補助金を石油元売りに支給することにしたが、あっという間に上限に達してしまった。政府主導の春闘で、給料は2%以上上がる見込みだが、物価上昇はそれを上回る。
 この先の日本は、物価が上がるのに、株価も給料も上がらないという「暗黒時代」に突入する。
 そうなると、サラリーマンはワンコイン(500円)弁当でランチをすませようとするが、そんな価格の弁当はコンビニでも売っていない。そのため、「弁当男子」が激増するだろう。
 また、アフター5に行く激安居酒屋も、いずれドリンク1杯が500円を超えてしまうので、週に1回がせいぜいになる。しかも、コンビニや居酒屋にいた外国人店員はいなくなるので、なにもかもセルフサービスで行うしかなくなる。 
 そういう「超・円安」時代の入り口に、いま私たちは立っている。

 

現金・預金はどんどん目減りする

 日本国民は、本当に我慢強い。そして、節約することを美徳としている。いまも多くの日本人は、将来不安を感じながらも懸命に働き、そのうえでコツコツと貯金をしている。日本人の個人金融資の構成比を見ると、「現金・預金」が5割以上に達している。
 これは、アメリカの家庭が「株式・出資金」や「投資信託」さらに「債券」などを大量に保有していて、現金・預金の割合が1割強にすぎないことから見ると本当に異常だ。
 なぜなら、いまの時代、円による現金・預金は将来への備えにならないからだ。
 「円安、スタグ時代」では、円の現金・預金はリスクである。日銀は金利を上げられないジレンマに陥っているので、円の現金・預金を持っていればいるほど、ソンをすることになる。
 いずれにせよ、この先、円資産は目減りする。円安が進めば、ますますそうなる。
 私たちはいま、「円・アタマ」から「ドル・アタマ」に切り替えなければならない。円はもはやおカネではない。そう思うべきだ。いずれ、1ドル=150円になり、さらにその先1ドル=200円になるだろう。このような未来を前提にして、将来設計をすることが肝要だ。


(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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