連載755 ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (上)
(この記事の初出は3月29日)
今日までの報道を見ていると、経済制裁でロシアは追い詰められ、プーチン大統領はいずれ失脚するという見方が優勢だ。とくに日本の報道では、いまや国際社会全体がウクライナの味方で、ロシアは完全に孤立することになっている。
しかし、本当にそうなるだろうか?
今回は、この戦争がもたらす最悪のシナリオを予測してみる。つまり、ロシアは意外にも粘り抜き、経済制裁はブーメラン効果で西側をも疲弊させる。その結果、世界はかつての冷戦時代と同じく完全に分断され、アメリカが世界覇権を失うというシナリオだ。そうなった場合、ドルは暴落する可能性がある。しかも、そうした世界でいちばん割りを食うのは、この日本ではなかろうか?
西側の論理はロシアには通用しない
ウクライナ戦争が始まって1カ月。ロシアが目論んだ短期勝利はなくなり、戦争は泥沼化。このままいくと、長期戦になるのは間違いないという展開になってきた。
ロシアの短期勝利がなくなったことで、アメリカと西側陣営の経済制裁は効いている、やがてロシアは内部崩壊する、プーチン大統領は失脚するというのが、大方の見方だ。日本のメディアは、欧米メディアの受け売りだけだから、いま、そうした情報ばかりを流している。
しかし、この見方は、単なる「希望的観測」ではないだろうか?
ロシア軍の士気は低い。ロシア国内でも反戦運動が起こっている。情報統制にほころびが見え始めた。そして、なによりも経済制裁が効いて、インフレが亢進しているということで、たしかにロシアは追い詰められている。
しかし、プーチン大統領は、欧米のメディア報道では「精神的に追い詰められている」「弱気になっている」とされるものの、実際は意気軒昂だ。3月16日、国民向けの演説に立った彼は、「ウクライナでの特別軍事作戦は唯一の安全保障の手段であり、西側に加担する者は裏切り者だ」と、強調した。
国家の指導者が、世論や反対運動によって引き摺り下ろされるというのは、西側の民主国家の論理だ。専制が強固なら、よほどのことがなければ国民は指導者に唯々諾々と従う。しかも、プーチン大統領のこれまでの言動からみて、彼は勝つまでは絶対に引かないだろう。
戦争終結に関する5つのシナリオ
戦争が始まって2週間後の3月初旬、英BBCの外交担当ジェイムズ・ランデイル編集委員は、ウクライナ戦争の終結に関して、以下の5つのシナリオを提示した。
(1)短期決戦:すぐにもキエフは陥落し、ゼレンスキー政権は崩壊。ウクライナはベラルーシ同様、ロシアの従属国家になる。
(2)長期戦:ウクライナは西側諸国から提供された武器と弾薬で戦い続け、戦線は膠着。この状態が長期にわたり続く。
(3)欧州戦争:ロシアは軍事行動をエスカレート。戦線は全土に及び、なにかのけっかでNATOとの戦争に突入する。
(4)外交的解決:停戦交渉は続けられ、ロシアがなんらかの妥協をしていったん停戦する。仲介国が現れ、外交交渉による解決が図られていく。
(5)プーチン失脚:ロシア軍の莫大な損害、死傷者の多さにプーチン大統領は国民、指導部の支持を失い、クーデターが起こって失脚する。
すでに、このうち短期終結という(1)はなくなり、停戦合意という(4)も難航しているので、長期戦になるという(2)が有力で、すでにそうなっていると言える。
そこで問題は、この長期戦がいつまで続き、その場合、いずれプーチン失脚というシナリオ(5)が起こりうるかどうかだ。
(つづく)
この続きは4月27日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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