連載756  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (中1)

連載756  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (中1)

(この記事の初出は3月29日)

 

ウクライナを“生贄”にしてロシアを倒す

 長期戦が今後数カ月の範囲で収束し、西側の期待どおり、プーチン失脚によるロシアの体制転換で終わるなら、世界は元に戻るだろう。専制国家は民主国家には勝てず、「自由、人権、民主主義」という“普遍的価値”は守られるだろう。
 しかし、戦争が1年も2年も続いた場合はどうなるだろうか? 実際、アフガン戦争は20年も続き、アメリカ軍とNATO軍が撤退したのは、昨年の8月だった。ちなみに、アフガン戦争は、アメリカ史上、もっとも長く続いた戦争である。
 ウクライナがアフガン化するかどうかはわからないが、鍵を握っているのは、なんといっても経済制裁。これが効くかどうかだ。アメリカとNATOが軍事介入しないのだから、ロシアの継戦能力を挫くには、経済制裁以外にない。
 この状況を端的に言うと、ウクライナはいわば“生贄”(いけにえ)である。アメリカは「自由、人権、民主主義」を守ると言いながら、自身は安全地帯にいて、直接行動はしていない。これは、オバマ、トランプと2代続いた大統領の方針(=世界の警官ではない)をバイデン大統領が引き継いでいるからであり、また、バイデン大統領が核戦争、第3次世界大戦を怖がっているからだ。
 しかし、このような弱腰で“口先番長”という態度は、長期戦になればなるほど、アメリカに大きな損失をもたらすのではないだろうか。

 

経済制裁とは平たく言うと「兵糧攻め」

 アメリカが経済制裁という戦略を選んだのは、ランド研究所が3年前に策定した「対ロシア戦略計画」の影響が大きい。この計画は、天然ガス(LNG)と石油の輸出に依存するロシア経済の弱点を攻撃することを主眼としていた。そのために、貿易制裁、金融制裁を行い、欧州のロシアからのLNGの輸入を減らさせ、アメリカのLNGに置き換えるべきとしていた。そうして、対ロ戦略の最終目的を、ロシアの体制転換としていた。
 いまや、この戦略は、ロシアのウクライナ侵略によって現実となった。ロシアの体制転換、すなわちプーチンの追放は、アメリカ政府はもとより、すでに、フランスのルメール経済・財務相も、英国のジョンソン首相も明言している。
 しかし、経済制裁の大きな問題は、それがどうしても長期戦になってしまうということだ。経済制裁は、英語の「economic sanction」を訳した用語だが、平たい日本語では「兵糧攻め」である。これが、戦争で有効なのは、攻められる側が食糧を自給自足できない場合だ。食糧が尽きれば戦えない。
 つまり、それまでどれくらいかかるかである。

 

経済制裁は非人道的、国民が苦しむ

 ロシアはウクライナの市民、民間人を殺戮している。それは人道に反すると非難する声が強いが、経済制裁もまた非人道的な行為である。なぜなら、これで苦しむのは兵士ばかりか、市民、民間人だからだ。最終的に、敵の国民が餓死するまで兵糧攻めは続く。
 つまり、経済制裁というのは、国民と政府を同一視し、政府の犯罪に対して国民も同罪として罰するという考えに基づいている。
 国連は、戦争防止の観点から経済制裁を制度化し、経済制裁と武力制裁を組み合わせた圧力で集団安全保障を機能させようとしてきた。しかし、国連が経済制裁を発動させるためには、安保理の3分の2以上の賛成かつ常任理事国(5カ国)の拒否権発動がないことが条件になる。つまり、国連は事実上機能していない。
 そのため、これまで、アメリカなどの主要国の連合によって経済制裁が行われてきた。しかし、この連合に参加国する国が少なければ、経済制裁は機能しない。


(つづく)

 

この続きは4月28日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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