連載758  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (下)

連載758  ウクライナ戦争“最悪のシナリオ” 長引けばアメリカは覇権を失いドルは暴落する (下)

(この記事の初出は3月29日)

 

「SWIFT」排除の金融制裁は効かない

 経済制裁のなかで、もっともロシアにダメージがあるのは、金融制裁とされる。その切り札が、基軸通貨のドルを使えなくすることで、そのために、ロシアの主要7銀行を「SWIFT」(国際銀行間通信協会)から排除することになった。
 しかし、このなかに、ロシア最大のズベルバンクを入れられなかった。その理由は、ここを外してしまうと、ドイツなどでエネルギー輸入の決済ができなくなるからだ。
 このように、金融制裁においても抜け穴があるばかりか、すでにロシア側にも対抗策が用意されている。それが、ルーブルを基にした独自の国際決済ネットワーク「SPFS」で、これに中国が構築した国際銀行決済ネットワーク「CIPS」が繋がれば、金融制裁のダメージは少なくなる。
 また、制裁に参加していないインドとは、ドルを介さず、インド・ルピーとルーブルを使った貿易決済システムをつくる動きになっている。インドは、兵器システムをロシアに依存しており、経済制裁に加わる気はない。
 さらに、同じく経済制裁に加わっていないサウジアラビアの場合、「ペトロ人民元決済」と言って、人民元による石油取引決済が動き出している。すでに、石油取引に関しては、2020年には英BPが上海先物取引所で人民元建てにより中東産原油を引き渡すなどの事例がある。
 つまり、ルーブルが人民元と繋がり、人民元がドルと繋がっていれば、SWIFT制裁は効かない可能性がある。

 

経済制裁の成否の鍵を握る中国の出方

 このように見てくると、ロシアに対する経済制裁の鍵を握るのは、西側諸国ではなく、中国である。そのため、バイデン大統領は習近平主席に対して「ロシアを支援するな」と釘を刺した。しかし、中国が、この警告を聞く可能性はほとんどない。
 中国は用心深く、いま、情勢を見つめているだけだ。ロシア支援を明確化すれば、アメリカ、欧州からの強い批判にさらされるので、それを避けて機会を待っている。
 しかし、「中国の夢」は、アメリカに代わって世界覇権を握ることだから、長期的な視野に立てば、ロシアとの関係を強化していくだろう。
 中国はロシアのエネルギー資源と食糧を必要とし、ロシアは、中国が持つ技術と資本を必要としている。この補完関係のため、中ロ間の貿易は、2001年の107億ドルから、2021年には約1400億ドルに拡大した。なんと、20年間で10倍以上になっている。
 ウクライナ戦争が長引けば、この貿易額がさらに拡大していくのは間違いない。

 

中ロ経済圏の拡大で米覇権は後退する

 ウクライナ戦争が「世界を冷戦時代に戻した」という見方がある。この見方は、おおむね正しい。しかし、今回の「新冷戦」が、かつての冷戦と違うのは、中国の力がありにも大きいということにある。
 かつての中ロは、西側にとっては経済力から言えば、とるに足らない存在だった。しかし、いまや中国は世界第2位の経済大国になり、軍事力も世界第2位である。つまり、「中ロ連合」は、けっして侮れない。
 さらに、中ロ連合経済圏に、今回の経済制裁に参加していないインドやブラジルなどの大国、中東諸国、アジア諸国が加わっていくと、起こるのは、アメリカの世界覇権が失われていくということだ。世界は分断され、東西のブロック経済となるが、アメリカは単なる西側の盟主に転落し、ドルのパワーも衰えていく。
 トランプ前大統領がイラン核合意から離脱した後、EUはアメリカの経済制裁を回避し、イランと貿易するために特別な支払いルートを設けた。つまり、ユーロによる決済を進めた。これと同じことが、ロシアへの経済制裁で起こりつつある。
 これが進めば、基軸通貨ドルは弱体化する。もし多くの国がドルを捨てれば、ドルは暴落し、アメリカ国内でも経済的な混乱が生じるだろう。


(つづく)

 

この続きは5月2日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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